相続税

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論題

日本政府は一定額以上の相続税・贈与税の税率を100%にすべきである。是か非か。

プラン

日本政府は一定額以上の相続税・贈与税の税率を100%とする。

モデル

肯定側立論

メリット

高齢者資産の社会還元

現状の問題1

社会保障費の増大

高齢化に伴って、社会保障費が年々増大しています。資料(1)からわかるように、社会保障費は年々増加し、2025年に140兆円、2040年には190兆円にも達すると言われています。また資料(2)が示すように、社会保障費に対しての予算額も年々増加しています。

資料(1)内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省、2018年

 社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%(名目額121.3兆円)から、2025年度に21.7~ 21.8%(同140.2~140.6兆円)となる。その後15年間で2.1~2.2%ポイント上昇し、2040年度には23.8~ 24.0%(同188.2~190.0兆円)となる(計画ベース・経済ベースライン ※ 。以下、医療・介護関係及び社会 保障負担について同様)。

資料(2)毎日新聞、2018年

 政府は2019年度予算案で、社会保障費を過去最大の34兆600億円程度にする方針を固めた。前年度当初に比べ約1兆700億円の増額。高齢化で医療・介護費が増えるのに加え、来年10月の消費税増税時に始める幼児教育無償化などで規模が膨らむ。

現状の問題2

高齢者福祉の社会化

社会保障、社会福祉の主な受益者は高齢者です。社会全体で高齢者を支えています。しかし、相続財産は個人に承継され、高齢者を支えてきた社会には還元されません。資料(3)が述べているように、社会保障費の財源は高齢者の財産の一部を含め広く調達すべきであり、相続税・贈与税が有効な財源として専門家の間で注目されています。もちろん、高齢者の貧困層も存在することから一律に相続税を上げることは適切ではなく、一定額以上の相続・贈与に関わるもの、すなわち富裕層をターゲットとすべきです。

資料(3)日本税理士連合会・税制審議会、2018年

 このような状況からみると、介護、医療、年金などの社会保障給付は、高齢者が多く を享受することから、その財源は高齢者を含めて広範囲に調達すべきであり、その一環 として相続財産に対して可能な限り広く負担を求める必要があるという意見がある。 ただし、社会保障制度の整備が進行しているとしても、高齢者間には依然として資産 格差や所得格差が大きいことに留意する必要がある。したがって、一部の富裕層に対する課税の強化は容認できるとしても、高齢者に広く相続税の負担を求めることは適切ではないと考えられる。

重要性1

社会保障制度の最大の受益者は高齢者であるにも拘わらず、高齢者の財産は個人が相続し、社会には還元されません。

資料(4)で述べているように、高齢者の社会福祉は社会全体で支えています。それにも拘わらず、高齢者の財産は相続税・贈与税として個人に譲渡され、社会には還元されません。高齢者を社会全体で支えている以上、高齢者の相続財産を社会に還元させることが重要です。

資料(4)富士通総研上席研究員・渥美、2005年

 更に今後、老親扶養の社会化が進んでいることを考えると、「社会保障制度の受益者である高齢者の相続資産の一部を社会に還元する」という観点も相続税に加味すべきであると考える。この観点から言えば、現行の相続税は先に述べたように、課税最低限の額が高く設定されているため、9割以上の人が課税されていない。このままでは相続資産の受益はこれまで通り個人が受けることになってしまい、社会には還元されない

資料(5)日本税理士連合会・税制審議会、2018年

近年の相続税に関する議論をみると、社会保障費が急増しているわが国の財政の現状、社会保障制度の整備及び老後扶養の社会化の進展等を勘案すると、社会保障財源を調達するため、相続を機に相続財産の一部を社会に還元させるという視点が重要であるとされている。

重要性2

相続財産を個人が相続し、社会に還元されないことによって、社会格差が拡大する。

資料(6)を見てください。富裕層の財産が低率で相続されることによって社会格差が拡大します。富裕層と貧困層の資産格差がそのまま相続を通じて、子ども世代へと継承されていくのです。

資料(6)富士通総研上席研究員・渥美、2005年

 以上を加味すると、社会保障給付の充実は富裕な高齢者が資産の一部に組み込まれている可能性があり、多くの富裕な高齢者の資産が低率で継承される。このままでは、高齢者における大きな資産格差は相続を通じてそのまま子世代への資産格差へと移転してしまう

重要性3

社会保障負担は年々増大しており、勤労世帯の家計を圧迫しています。

資料(7)が明確に述べているように社会保険の変動率は年々上昇しており、2004年から2017年までの13年間で35%も上昇しており、家計を圧迫しています。

資料(7):家計コンサルタント・八ツ井、2019年

 社会保険料率の中でも、その数値が高いのは厚生年金保険料率です。そして、2004年度から始まった料率の引き上げは、2017年度に上限の18.3%に達しました。(中略)ちなみに、2004年度の厚生年金保険料率は13.58%でした。「18.3%と比較して、5%くらいのアップか」というのは正しいようで、的を射ていないかもしれません。“変動幅”でいえば、確かにそうなのですが、“変動率”でいうと、18.3÷13.58≒1.347……。つまり、この間の厚生年金保険料は同じ収入に対して、約35%アップしたことになります。

解決プロセス1

プランを導入し、一定額以上の財産を相続・贈与する富裕層の税率を100%とします。

このことは財産の相続・贈与にあたっては同額の税金を納めなければならないことを意味しています。

解決プロセス2

相続税・贈与税を広く徴収し、社会保障財源とすることで、高齢者の相続資産を社会に還元することができます。

例えば資料(8)で述べているように相続税を社会保障財源とした場合に数兆円の財源となることが見込まれ、さらに税率を100%とすることによってより多くの税収が見込まれます。このように相続税・贈与税を100%とすることで、その税収を社会保障財源として社会に還元することができるのです。

資料(8)富士通総研上席研究員・渥美、2005年

 2025年の増収は相続税強化策で2.9兆円、遺産課税新設策で8.7兆円と試算され、これは同年における「高齢者関連の社会保障費」176兆円のそれぞれ2%弱、5%弱に相当する。これらの割合はそれほど大きいものではない。しかしながら、数兆円単位の増収が見込まれる新たな財源というのは、相続税以外にはあまり見当たらない

解決プロセス3

それによって社会格差を縮小させ、機会の平等をはかることができます。

資料(9)が述べているように富裕層に高額な相続性・贈与税を課すことによって、その資産を社会に再分配することが可能になり、格差の固定化を防ぐことができます。

資料(9)日本税理士連合会・税制審議会、2018年

相続税の基本的かつ重要な機能は、高額な資産に多くの負担を求めることにより、資 産を再分配するとともに、格差の固定化を防止することにある。また、そのことによって、次世代における「機会の平等」も図れることになる。

以上の点から、この肯定側のメリットは非常に重要です。肯定側立論を終わります。

否定側立論

デメリット

富裕層の海外流出

現状とプランの違い

プランをとることで富裕層は財産を相続できなくなります。 そこで富裕層はどうせ財産が相続できなくなるならと考え、資料(10)で述べられているように、租税回避を試みるようになります。

資料(10)椙山女学園大学教授・柴、2006年

 将来の遺贈に対して高い税率の相続税(遺産税)が課税されるならば、生前に多く消費し、 あまり働かず、貯蓄もせず、租税回避をしようとするので、経済的に悪影響を及ぼすのみならず、税収にも影響を及ぼすという

富裕層は租税回避を目的として海外に移住します。

問題発生プロセス1

世界には相続税の無い国が多くあります。

資料(11)が示しているように世界には相続税のある国が44か国、対して相続税の無い国は83か国もあります。

資料(11)日本税理士連合会・税制審議会、2018

 G7諸国以外において相続税制のない国又は地域は83か国であり、その数は相続税制のある44か国を大きく上回っている

問題発生プロセス2

相続税の増税は国際的な租税回避を助長します。

資料(12)が指摘するように、富裕層を狙い撃ちにした課税強化を続ければ「富裕層の日本離れ」が加速します。実際に、香港やシンガポールは非課税なのですから、それを魅力に感じて移住する富裕層も多くいることでしょう。

資料(12)日本経済新聞、2014年10月22日

 快適な住環境などを求めて移住した人もいるが、シンガポールや香港は相続税も非課税で税率の低さに魅力を感じて移り住んだ人も多い。(中略)15年からは富裕層の税負担も増える。4000万円超の所得にかかる所得税の最高税率が40%から45%に上がる。相続税も相続財産6億円超にかかる最高税率が50%から55%に上がる。社会保障費の増大など厳しい財政事情から富の再分配を強化する目的だが、富裕層を狙い撃ちにした課税強化を続ければ「富裕層の日本離れを加速する」との指摘もある。

深刻性

租税回避が増えれば貧困層への支援や富の再分配ができなくなります。

資料(13)が明らかにしているように、相続税・贈与税の廃止が世界の潮流です。したがって、肯定側プランで相続税・贈与税を強化しても富裕層は相続税の無い国に移住するだけなのです。そうすると、結果として税収は下がり、富の再分配どころではなくなってしまうのです。

資料(13)柴、2006年

 しかし、世界的に見て、相続税、遺産税の廃止の背景 には、税を通じた富の再分配そのものに対する批判がある。また、相続税を廃止する国が増えれば、そうした国に資産を移転することで租税回避が可能となるから、結局、富の再分配を課税根拠として相続税を強化することに限界があるであろう。

以上の点から肯定側プランは採択すべきではありません。否定側立論を終わります。

資料集

【1】

内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し (議論の素材)」2018年5月21日

 社会保障給付費の対GDP比は、2018年度の21.5%(名目額121.3兆円)から、2025年度に21.7~ 21.8%(同140.2~140.6兆円)となる。その後15年間で2.1~2.2%ポイント上昇し、2040年度には23.8~ 24.0%(同188.2~190.0兆円)となる(計画ベース・経済ベースライン※ 。以下、医療・介護関係及び社会 保障負担について同様)。

【2】

毎日新聞、2018年12月19日

 政府は2019年度予算案で、社会保障費を過去最大の34兆600億円程度にする方針を固めた。前年度当初に比べ約1兆700億円の増額。高齢化で医療・介護費が増えるのに加え、来年10月の消費税増税時に始める幼児教育無償化などで規模が膨らむ。

【3】

日本税理士連合会・税制審議会、2018

 このような状況からみると、介護、医療、年金などの社会保障給付は、高齢者が多く を享受することから、その財源は高齢者を含めて広範囲に調達すべきであり、その一環 として相続財産に対して可能な限り広く負担を求める必要があるという意見がある。 ただし、社会保障制度の整備が進行しているとしても、高齢者間には依然として資産 格差や所得格差が大きいことに留意する必要がある。したがって、一部の富裕層に対する課税の強化は容認できるとしても、高齢者に広く相続税の負担を求めることは適切ではないと考えられる。

【4】

富士通総研上席研究員・渥美由喜「社会保障財源としての相続税改革の方向―相続税の強化、遺産課税の新設シチュエーション」『Economic Review』9-2, 2005.4.

 更に今後、老親扶養の社会化が進んでいることを考えると、「社会保障制度の受益者である高齢者の相続資産の一部を社会に還元する」という観点も相続税に加味すべきであると考える。この観点から言えば、現行の相続税は先に述べたように、課税最低限の額が高く設定されているため、9割以上の人が課税されていない。このままでは相続資産の受益はこれまで通り個人が受けることになってしまい、社会には還元されない

【5】

日本税理士連合会・税制審議会、2018

 近年の相続税に関する議論をみると、社会保障費が急増しているわが国の財政の現状、社会保障制度の整備及び老後扶養の社会化の進展等を勘案すると、社会保障財源を調達するため、相続を機に相続財産の一部を社会に還元させるという視点が重要であるとされている。

【6】

富士通総研上席研究員・渥美由喜「社会保障財源としての相続税改革の方向―相続税の強化、遺産課税の新設シチュエーション」『Economic Review』9-2, 2005.4.、2005年

 以上を加味すると、社会保障給付の充実は富裕な高齢者が資産の一部に組み込まれている可能性があり、多くの富裕な高齢者の資産が定率で継承される。このままでは、高齢者における大きな資産格差は相続を通じてそのまま子世代への資産格差へと移転してしまう

【7】

家計コンサルタント・八ツ井慶子「厚生年金率”13年で35%アップ”の衝撃」『プレジデント・ウーマン』、2019.5.25

 社会保険料率の中でも、その数値が高いのは厚生年金保険料率です。そして、2004年度から始まった料率の引き上げは、2017年度に上限の18.3%に達しました。ちなみに、2004年度の厚生年金保険料率は13.58%でした。「18.3%と比較して、5%くらいのアップか」というのは正しいようで、的を射ていないかもしれません。“変動幅”でいえば、確かにそうなのですが、“変動率”でいうと、18.3÷13.58≒1.347……。つまり、この間の厚生年金保険料は同じ収入に対して、約35%アップしたことになります。

【8】

富士通総研上席研究員・渥美由喜「社会保障財源としての相続税改革の方向―相続税の強化、遺産課税の新設シチュエーション」『Economic Review』9-2, 2005.4.

 2025年の増収は相続税強化策で2.9兆円、遺産課税新設策で8.7兆円と試算され、これは同年における「高齢者関連の社会保障費」176兆円のそれぞれ2%弱、5%弱に相当する。これらの割合はそれほど大きいものではない。しかしながら、数兆円単位の増収が見込まれる新たな財源というのは、相続税以外にはあまり見当たらない」

【9】

日本税理士連合会・税制審議会、2018

 相続税の基本的かつ重要な機能は、高額な資産に多くの負担を求めることにより、資 産を再分配するとともに、格差の固定化を防止することにある。また、そのことによっ て、次世代における「機会の平等」も図れることになる。

【10】

椙山女学園大学教授・柴由花「スウェーデン相続税および贈与税法の廃止」、土地総合研究所レポート、2006年4月15日

 将来の遺贈に対して高い税率の相続税(遺産税)が課税されるならば、生前に多く消費し、あまり働かず、貯蓄もせず、租税回避をしようとするので、経済的に悪影響を及ぼすのみならず、税収にも影響を及ぼすという

【11】

日本税理士連合会・税制審議会、2018

 G7諸国以外において相続税制のない国又は地域 3は83 か国であり、その数は相続税制のある44か国を大きく上回っている。

【12】

日本経済新聞、2014年10月22日

 快適な住環境などを求めて移住した人もいるが、シンガポールや香港は相続税も非課税で税率の低さに魅力を感じて移り住んだ人も多い。(中略)15年からは富裕層の税負担も増える。4000万円超の所得にかかる所得税の最高税率が40%から45%に上がる。相続税も相続財産6億円超にかかる最高税率が50%から55%に上がる。社会保障費の増大など厳しい財政事情から富の再分配を強化する目的だが、富裕層を狙い撃ちにした課税強化を続ければ「富裕層の日本離れを加速する」との指摘もある。

【13】

椙山女学園大学教授・柴由花「スウェーデン相続税および贈与税法の廃止」、土地総合研究所レポート、2006年4月15日

 しかし、世界的に見て、相続税、遺産税の廃止の背景 には、税を通じた富の再分配そのものに対する批判がある。また、相続税を廃止する国が増えれば、そうした国に資産を移転することで租税回避が可能となるから、結局、富の再分配を課税根拠として相続税を強化することに限界があるであろう。

【14】(肯定側)社会保障費は今後ますます増大する

富士通総研上席研究員・渥美由喜「社会保障財源としての相続税改革の方向―相続税の強化、遺産課税の新設シチュエーション」『Economic Review』9-2, 2005.4.

 厚生労働省は、将来の「高齢者関係給付費」を推計している(2000年10月)。これを見ると、高齢者関連の社会保障給付費は、今後ますます増大し、高齢者関係給付費が国民所得に占める割合、2025年度には29%を占める見通しである

【15】(否定側)スウェーデンが相続税・贈与税を廃止した背景には租税回避がある

椙山女学園大学教授・柴由花「スウェーデン相続税および贈与税法の廃止」、土地総合研究所レポート、2006年4月15日

 スウェーデンの相続税および贈与税法が廃止された要因には、配偶者・同棲者の相続権の強化、株式の課税評 価の問題、中小企業の事業承継の問題、国際的租税回避、 執行費用の増大といった要因を挙げることができる。

【16】(否定側)相続税・贈与税の税収は低く、富の再分配は期待できない(スウェーデンの例)

椙山女学園大学教授・柴由花「スウェーデン相続税および贈与税法の廃止」、土地総合研究所レポート、2006年4月15日

 他方、スウェーデンでは、相続税、贈与税が税収に占める割合は以前から低く、富の再分配というより、富の集中を防ぐ程度の役割しか果たしてなかった。さらに、度重なる相続税の軽減措置の導入により、税収に占める割合はかなり減少していた。したがって、相続税の富の再分配という機能は、あまり重視されてこなかったといえよう。

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