ふるさと納税
論題
日本は、ふるさと納税を厳格化すべきである。是か非か。
プラン
過去に住民票を置いたことのある自治体にのみ、寄付できるものとする。
モデル
肯定側立論
論題を肯定する立場で立論を行います。規程のプランを導入した場合のメリットは「未来への公共投資」です。
現状の問題
まず、現状の問題を説明します。
現状の問題「未来への投資の不足」
更に2つに分けて説明します。
問題の理由1
「予算をつけにくい」
資料17番にあるように、教育は、予算に限りがあり、査定が難しいことなどから、追加投資が難しい分野です。また、資料18番にあるように、移住促進や企業誘致といった外部へのアプローチも予算をつけにくい分野です。 そのため、人口を増やし教育を行う、長期的な視野での未来への投資が進んでいません。
【17】論点2:地域を離れた人が教育に寄付の例 「ふるさと納税と地域経営」2016年より、鳥取県知事 平井伸治 (対談の中での発言)178ページ
鳥取県のふるさと納税は、寄付金を「鳥取県こども未来基金」に積み立てるということで、使途を指定してスタートしたのですが、(中略)なぜ使途のメインが子どもたちなのか。それは元々寄付者には故郷を離れた人を想定しており、故郷で次の世代が育つように応援してください、という思いがあったからです。具体的な活用方法は、小学校1年生から中学校3年生までを少人数学級にする、中山間地域の保育料無償化、同一世帯の第3子以降の児童の保育料無償化、小児特別医療費助成を18歳まで、といずれも全国で一番進んだ取り組みです。
なぜこのような思い切った施策ができるかと申しますと、やはりふるさと納税の存在が大きいです。子どもに掛けられるお金はどの自治体も限られている上に、すぐに効果が出るかは分かりません。財政的に査定が非常に難しいところです。その点、鳥取県が平成27年度にふるさと納税で託されたお金は3億6000万円ありますが、これはある意味、思い切った施策を打ってくれ、と背中を押していただいているものと理解しています。
【18】論点2:地域外のニーズで地方を育てる 「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章7節第3パラグラフ
従来の自治体の顧客は地元住民であるので、彼らのためにお金を使うというのが従来の発想となる。しかし、外から人や企業を呼び込むための投資となれば、使う先は外部ということになる。もっとも、税金は基本的には払う人と便益を受ける人が同一であることが原則なので、ふるさと納税に当てはめて考えると、寄附をしてくれた人たちが喜ぶような使い道に充当するのも一案だし、理解が得られやすい。つまり、もともと外部の人が出してくれたお金であるので、外部の人に使っていいお金ということになる。例えば移住してくる人に対しての支度金を町の財政から50万円なり100万円なり支払う場合は、なぜ自分たちが納めた住民税を地域外の人間に使うんだという批判が出ることがよくある。しかし、ふるさと納税を原資とすれば、そのような批判は比較的かわしやすい。したがって、移住定住の促進のため、あるいは企業が事業所を開設するための補助金を一部ふるさと納税から出すというような政策は従来よりもやりやすいはずである。
問題の理由2
「査定されない」
資料22番にあるように、制度上、地方自治体は納税者や中央省庁有権者から査定されています。しかし、実際には、その機会や強制力は少ないです。 この資料は、ふるさと納税のモニタリング効果を説明しています。使い道を指定した寄付者は、成果が上がらなければ、違う自治体に寄付したり、ふるさと納税をやめたりするだろう、ということです。
【22】モニタリング効果 「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 TOPICS 2節第2パラグラフ
地方自治体の財政規律のモニタリングはこれまで、地域内の納税者である個人及び企業、そして地方債の債権者、並びに地方財政制度上のモニター役としての中央政府の総務省及び財務省にもっぱら委ねられていた。
しかしふるさと納税により、寄附者が地方自治体の実施したい政策の財源調達の大きな担い手になってくると、寄附者は地方自治体の政策実施に対する財政規律のモニターにビルトインされることになる。たとえば、ふるさと納税の寄附者は効果的ではないと判断したある自治体の政策をファイナンスするふるさと納税をやめ、もっと効果的だと思われる別の自治体の政策をファイナンスするふるさと納税に切り替えるかもしれない。
このような政策効果を巡る「ふるさと納税の地域間移動」が大きな波になれば、効果的でなない政策をふるさと納税による財源をあてにして実施しようとする地方自治体には、厳しい財政規律の担い手になるだろう。財政規模が小さく、ふるさと納税に依存する度合いの大きい地方自治体では、このモニタリング効果は大きいものになると予想される。
でも、実際にはその査定すら機能していません。査定する意欲が低いからです。 例えば、資料12番を見ると、返礼品目当ての利用者が多く、「自治体を支援したい」人は30%台にすぎません。 更に、資料13番によると、せっかく使い道を指定できるのに「町長一任」を選択する人が多いそうです。「使い道を指定して査定しよう」という意欲に欠けています。
【12】論点1:返礼品目当て≠自分ごと マイボイスコム株式会社『ふるさと納税』に関するインターネット調査 結果 アンケート期間:2019年7月1日~5日 回答数:10,065件
◆ふるさと納税で寄付をしようと思った理由
ふるさと納税で寄付をしようと思った理由は(複数回答)、「寄付の特典(返礼品)が魅力的」が寄付経験者の65.2%、「寄付をした金額は税金から控除・還付される」が52.4%、「少量の負担で、豪華な特典(返礼品)がもらえる、お得感」「寄付を通じて、自治体を支援したい」が各30%台です。
◆ふるさと納税で寄付をした自治体の選定理由
ふるさと納税で寄付をした自治体の選定理由は(複数回答)、「寄付の特典(返礼品)が魅力的」が寄付経験者の65.9%、「還元率がよい」が25.4%、「自分や家族の出身地、ゆかりのあるところ」「寄付の特典(返礼品)が地元のものである」が各2割弱です。
【13】論点1:使い道「町長一任」≠自分ごと 「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章9節第5パラグラフ
寄附者側はまた異なる事情を抱える。寄附者にとっては使い道も重要であるが、特にふるさと納税初心者にとっての最大の関心は返礼品である。申し込み時に返礼品はじっくり選ぶが、使い道は何でも良いと考える人も少なくない。そういう人たちは、具体的な事業が提示されると、その内容について知る必要が出てきて手間がかかるので面倒である。先ほどの医療や福祉など6つぐらいの大枠での分野指定や、あるいは、「その他」「町長一任」という方が助かるのである。実際、「町長一任」を選択する人が最も多い、という自治体は少なくない。
プラン
ここで、規程のプランを導入します。つまり、以前住んだことのある自治体にしか寄付できない制度を導入します。 すると、問題が解決することを、3点に分けて説明します。
解決プロセス1
「厳密な『ふるさと』への寄付」
資料12によると「自分や家族の出身地、ゆかりのあるところ」を選んで寄付している人はたったの2割弱です。これが100%になるのですから、大きな違いです。
【12】論点1:返礼品目当て≠自分ごと マイボイスコム株式会社『ふるさと納税』に関するインターネット調査 結果 アンケート期間:2019年7月1日~5日 回答数:10,065件
◆ふるさと納税で寄付をしようと思った理由
ふるさと納税で寄付をしようと思った理由は(複数回答)、「寄付の特典(返礼品)が魅力的」が寄付経験者の65.2%、「寄付をした金額は税金から控除・還付される」が52.4%、「少量の負担で、豪華な特典(返礼品)がもらえる、お得感」「寄付を通じて、自治体を支援したい」が各30%台です。
◆ふるさと納税で寄付をした自治体の選定理由
ふるさと納税で寄付をした自治体の選定理由は(複数回答)、「寄付の特典(返礼品)が魅力的」が寄付経験者の65.9%、「還元率がよい」が25.4%、「自分や家族の出身地、ゆかりのあるところ」「寄付の特典(返礼品)が地元のものである」が各2割弱です。
解決プロセス2
「査定する意欲の向上」
寄付する自治体は、文字通りのふるさとです。教育事業は、後輩への支援にあたります。また、将来、Uターンするかもしれない自治体です。移住者支援も人ごとではありません。 見ず知らずの自治体では「よくわからないから町長に一任しよう」と考えた納税者も、真剣に査定するようになります。
解決プロセス3
「査定される側の意識改革」
資料17番と30番で、鳥取県の平井知事は「『思い切った施策を打て』と寄付者に背中を押してもらっている」「地域の未来に焦点を当てた投資を行うチャンス」と述べています。寄付者の査定が機能すれば、ふるさと納税活用に積極的な鳥取県のような、意識の高い自治体が増えます。
【17】論点2:地域を離れた人が教育に寄付の例 「ふるさと納税と地域経営」2016年より、鳥取県知事 平井伸治 (対談の中での発言)178ページ
鳥取県のふるさと納税は、寄付金を「鳥取県こども未来基金」に積み立てるということで、使途を指定してスタートしたのですが、(中略)なぜ使途のメインが子どもたちなのか。それは元々寄付者には故郷を離れた人を想定しており、故郷で次の世代が育つように応援してください、という思いがあったからです。具体的な活用方法は、小学校1年生から中学校3年生までを少人数学級にする、中山間地域の保育料無償化、同一世帯の第3子以降の児童の保育料無償化、小児特別医療費助成を18歳まで、といずれも全国で一番進んだ取り組みです。
なぜこのような思い切った施策ができるかと申しますと、やはりふるさと納税の存在が大きいです。子どもに掛けられるお金はどの自治体も限られている上に、すぐに効果が出るかは分かりません。財政的に査定が非常に難しいところです。その点、鳥取県が平成27年度にふるさと納税で託されたお金は3億6000万円ありますが、これはある意味、思い切った施策を打ってくれ、と背中を押していただいているものと理解しています。
【30】論題3:自治体にとって政策コンテスト 「ふるさと納税と地域経営」2016年より、鳥取県知事 平井伸治 (対談の中での発言)179ページ
なぜこのような思い切った施策ができるかと申しますと、やはりふるさと納税の存在が大きいです。子どもに掛けられるお金はどの自治体も限られている上に、すぐに効果が出るかは分かりません。財政的に査定が非常に難しいところです。その点、鳥取県が平成27年度にふるさと納税で託されたお金は3億6000万円ありますが、これはある意味、思い切った施策を打ってくれ、と背中を押していただいているものと理解しています。通常とは違うスペシャルなお金が入ってくるのであればスペシャルなことをしよう、という自治体が増えていけば、ふるさと納税の中で政策のコンテストが始まるという気がしてます。交付金や地方税とはまた別の財源が入るというふるさと納税の寄付金は、地域の未来に焦点を当てた投資を行う上で首長さんにとって非常に大きなチャンスといえます。
以上3つのプロセスで「ニーズに合わせた公共投資」が行われるようになり、メリットです。
この問題の解決は極めて重要です。
重要性1
「未来への投資」
元住民が、20年後、30年後に向けた公共投資をモニタリングすること、そしてモニタリングによって政策の質が上がることは重要です。
重要性2
「ふるさとの経営への参加」
資料11番にあるように、ふるさと納税は「自分が選んだ自治体に、自分の税金を使ってもらう」という意識が持てる、唯一の仕組みです。 「自分が子どもの頃は大規模学級で担任の目が行き届かなかったから、少人数学級を増やしたい」といった、ふるさとの経営への参加は、主権者、納税者である我々にとって重要です。
【11】論点1:納税が自分ごとに 「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章8節第1パラグラフ
人々がふるさと納税をする理由はさまざまであるが、この制度がユニークなことはこれが唯一自分が使い道を選択できて、唯一どのように使われたかが見える税金だということである。もっとも、正確には原資は税金であるが、お金を提供するときには寄附金に変わっているため、使い道を指定できる税金という表現は厳密には正しくはない。ただし、納税者は、そのような感覚に陥っているはずだ。普段我々は、所得税や消費税など様々な税金を払っているがどのような形で有効活用されたのかよく見えないし、実感できない。ましてや、納税をすることで誰かから感謝の気持ちを直接表現されることなどない。単なる義務なのだ。よって、通常は税金に対しての不満が高い。負担感だけあって、あまりメリットは享受できていない。それが多くの人たちの税金に対するイメージであり、それゆえに選挙での争点にもなる。しかし、ふるさと納税の場合は、寄附先の自治体から丁寧に感謝をしてもらうことができる。消費者は、そこに対する痛快感みたいなものを持っている可能性がある。
否定側立論
論題を否定し、現状を支持する立場で立論を行います。デメリットは「寄付文化の衰退」です。
現状とプランの違い1
「災害支援」
現状は、よその地域からふるさと納税を活用した災害支援が可能です。 資料8によると、ふるさと納税の災害緊急支援で、2016年の制度化からこれまでの4年間に計103自治体、約11億円の支援が行われています。熊本地震の南阿蘇村の見舞金、配水池への送水管の修繕工事費など、被災者に直結した使い道が明らかになっています。
【8】災害時の寄付 YAHOOニュース MONEY PLUS 2020年8月2日
ふるさと納税ポータルサイト「さとふる」では、7月4日、「令和2年7月九州豪雨 災害 緊急支援寄付サイト」を開きました。河川の氾濫で大きな被害を受けた福岡県大牟田市、熊本県人吉市、長野県上松市などで、29日現在で寄付ができるのは31自治体に増えています。これまでに約1億2600万円の寄付が全国から寄せられました。
通常のふるさと納税では、自治体が求める寄付額と返礼品をポータルサイトに載せます。災害緊急支援の場合は、1000 円以上で1円単位で自由な金額を寄付することできますが、返礼品はありません。通常、自治体がサイトに払っている手数料などはサイト側が負担し、寄付金は全額自治体に届けられる仕組みです。同サイトで初めて災害支援寄付を募ったのは、2016年4月に発生した熊本地震でした。(中略)それ以降、2018年の北海道胆振東部地震、昨年の台風19号など、各地で災害が起きるたびに特設サイトを開設してきました。最近では災害時に、SNS上で「ふるさと納税で寄付出来ないかな」という投稿が当たり前に見られるようになりました。これまで、同サイトを通して被災地に届いた寄付は、計103自治体約11億円に上ります。
現状とプランの違い2
「地域の魅力の再発見」
現状は、ふるさと納税制度を通して、地域の魅力を再発見する場合があります。 資料19番には、葛飾区の北斎美術館の建設の例が上がっています。北斎ファンが寄付することで、5億円が集まり、北斎美術館ができました。 この資料によると、建設前は、区民からの反対意見もあったそうです。ふるさと納税として全国から寄附金が集まり、目に見える形で支援の輪が広まっていることを実感するにつれ、美術館完成への期待が高まり、北斎ゆかりのまちの住民としての愛着や一体感が醸成されていったといいます。
【19】論点2:地域外のニーズで育った例 「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 コラム「東京都葛飾区」第19パラグラフ 葛飾区 区民活動推進部長 鹿島田のインタビュー
平成28年11月22日開館時、寄附金額の累計は目標の5億円を達成した。
「ふるさと納税に取り組まなかったら、5億円を集められないばかりか、ふるさと納税による税収の変化に対応できなかったでしょう。また、ものづくりのまちの周知と、地場産業の振興を同時に図ることもできました。北斎美術館の建設は特定目的であることから、返礼品を伴うとはいえ、寄附者は北斎に関心のある人にセグメントされることや、北斎美術館のキャンペーンサイトでアクセス数が伸びていること、地域の産品が広く知れ渡ったことなどから、シティプロモーションとしても高い効果が得られました。開館後も、ふるさと納税をキャンペーンツールとして使う方針です。
建設前は、区民の間で他の施策に予算を回してはどうか、といった意見もありました。しかし、ふるさと納税として全国から寄附金が集まり、その経過を北斎美術館のキャンペーンサイトで報告し、目に見える形で支援の輪が広まっていることを実感するにつれ、区内では美術館完成への期待が高まっていき、北斎ゆかりのまちの住民としての愛着や一体感が醸成されていきました。」
ここで規程の肯定側プランを導入します。つまり、「ふるさと納税」を厳格化します。 すると、外からの「寄付文化」が衰退し、デメリットになります。
問題が発生するプロセスを3点に分けて説明します。
問題発生プロセス1
「第三者による支援ができなくなる」
プランを導入すると、過去の住民しか寄付することができなくなります。そういった人は地縁があるわけですから、被災地に実家があったり、親しい友人が住んでいたりすると考えられます。その人たちへの支援はしても、ふるさと納税の災害緊急支援を利用することはないでしょう。 よって、プランを導入した後の世界には、現状の魅力1で述べた11億円がなくなってしまいます。
問題発生プロセス2
「第三者の目が効かなくなる」
現状の魅力2で説明したように、住民は目に見える利益を求め、自分たちの街の魅力に気づいていないことがあります。葛飾の例では、外からの指摘がなければ、北斎を利用したまちおこしはできなかったことでしょう。 プランを導入すると、クラウドファンディング型ふるさと納税というかたちで指摘を受けることは、なくなってしまいます。
問題発生プロセス3
「未来への投資が限られる」
資料18にあるように、外からの視点がなければ投資しにくい分野も存在します。例えば、移住を促進するための政策などは、これから未来のふるさととなる地域を見つけ育てようとするクラウドファンディング型ふるさと納税があってこそ、発展するものです。
【18】論点2:地域外のニーズで地方を育てる 「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章7節第3パラグラフ
従来の自治体の顧客は地元住民であるので、彼らのためにお金を使うというのが従来の発想となる。しかし、外から人や企業を呼び込むための投資となれば、使う先は外部ということになる。もっとも、税金は基本的には払う人と便益を受ける人が同一であることが原則なので、ふるさと納税に当てはめて考えると、寄附をしてくれた人たちが喜ぶような使い道に充当するのも一案だし、理解が得られやすい。つまり、もともと外部の人が出してくれたお金であるので、外部の人に使っていいお金ということになる。例えば移住してくる人に対しての支度金を町の財政から50万円なり100万円なり支払う場合は、なぜ自分たちが納めた住民税を地域外の人間に使うんだという批判が出ることがよくある。しかし、ふるさと納税を原資とすれば、そのような批判は比較的かわしやすい。したがって、移住定住の促進のため、あるいは企業が事業所を開設するための補助金を一部ふるさと納税から出すというような政策は従来よりもやりやすいはずである。
深刻性
最後に、デメリットがいかに深刻か説明します。 被災地支援、住民が気付いていない地域の価値の指摘、移住政策の促進、これらはどれも現状のふるさと納税があるからこそ行われている、ふるさと納税を活用した地域政策です。 過疎地域が増え、限界集落の問題、地域の衰退が深刻化している今。地域を外から支援する政策を放棄するべきではありません。
資料集
- 「ふるさと納税」の概要や現状【1】〜【3】
- 「再配分」機能【4】〜【7】
ふるさと納税は、寄附金が住民税から控除されるものであることから、「都市居住者の地方税が、地方に再配分されている」と捉えられることがある。 - 災害支援の寄付としてのふるさと納税【8】〜【10】
- 後半は【2】の総務省「ふるさと納税の意義」3点に即している。
- 論点1:納税者の自治意識の高まり【11】〜【13】
- 論点2:地方を育てる意識の高まり【14】〜【20】
- 論点3:自治体の経営意識、競争活発化【21】〜【32】
【1】概要
「納税」という言葉がついているふるさと納税。実際には、都道府県、市区町村への「寄附」です。一般的に自治体に寄附をした場合には、確定申告を行うことで、その寄附金額の一部が所得税及び住民税から控除されます。ですが、ふるさと納税では原則として自己負担額の2,000円を除いた全額が控除の対象となります。
【2】現状の制度の意義
ふるさと納税には三つの大きな意義があります。
- 第一に、納税者が寄附先を選択する制度であり、選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる制度であること。それは、税に対する意識が高まり、納税の大切さを自分ごととしてとらえる貴重な機会になります。
- 第二に、生まれ故郷はもちろん、お世話になった地域に、これから応援したい地域へも力になれる制度であること。それは、人を育て、自然を守る、地方の環境を育む支援になります。
- 第三に、自治体が国民に取組をアピールすることでふるさと納税を呼びかけ、自治体間の競争が進むこと。それは、選んでもらうに相応しい、地域のあり方をあらためて考えるきっかけへとつながります。
さらに、納税者と自治体が、お互いの成長を高める新しい関係を築いていくこと。自治体は納税者の「志」に応えられる施策の向上を。一方で、納税者は地方行政への関心と参加意識を高める。いわば、自治体と納税者の両者が共に高め合う関係です。
【3】最新の実績
総務省自治税務局市町村税課「ふるさと納税に関する現況調査結果」 (2019年度実施) 表より抜粋
平成30年度の実績は、約5,127億円(対前年度比:約1.4倍)、約2,322万件(同:約1.34倍)。
ふるさと納税を募集する際の使途の選択 選択できる1708団体(95.5%)
そのうち、分野を選択できる 1,637団体(91.6%) 具体的な事業を選択できる 360団体(20.1%)
ふるさと納税の受入額実績や活用状況の公表の両方を公表している団体が増加
受入額実績・活用状況(事業内容等)の両方を公表 1,252団体(70.0%) 昨年度1,138団体
寄附者に対して、寄附金を充当する事業の進捗状況や成果について報告している団体が増加
576団体(32.2%) 昨年度499団体
令和元年度課税における控除額は約3,265億円(対前年度比約1.33倍)、控除適用者数は約395万人(同:約1.34倍)。
【4】再分配機能
参議院 決算委員会調査室 冨田 武宏「ふるさと納税制度による税源の偏在是正機能と限界」2017年
ふるさと納税の受入額及び控除額との収支状況を地方別に確認したところ、関東地方及び東海地方では受入額に比べて控除額が超過している市区町村の割合(以下「控除額超過割合」という。)が高くなっている一方、その他の地方においては受入額が控除額を上回っている(図表5参照)。特に、東京都区部を含む関東地方においては、控除額超過割合が57.3%となっており、関東地方から税源の一部が他の地方へと移転していることがわかる。
【5】再分配機能
参議院 決算委員会調査室 冨田 武宏「ふるさと納税制度による税源の偏在是正機能と限界」2017年
地方交付税制度は地方公共団体間における税源の偏在を是正するために設けられている制度であるが、その原資となる所得税や法人税等の多くは東京都をはじめとする大都市部からの収入であるのに対し、その大部分は大都市部以外の地方公共団体に配分されている。このように、主としてその税収が地方交付税の原資として移転される地域は、ふるさと納税の収支が赤字となっている地域と重なっている。
地方交付税の不交付団体である市町村は平成 27 年度で59団体、28年度で76団体とな っているが、その要因の多くは、発電所関連施設等が立地していたり、大企業の事業所等が所在したりしていることによるものであり、必ずしも当該市町村の規模に起因しているわけではない。
むしろ、政令指定都市や三大都市圏所在地方に所在する大規模な地方公共団体の多くは、その税収が地方交付税の原資として移転させられることにより財源不足が生じ、自らが地方交付税の交付団体となる一方で、ふるさと納税制度により更に税源が他の市区町村へと移転しているのである。
【6】再分配機能
参議院 決算委員会調査室 冨田 武宏「ふるさと納税制度による税源の偏在是正機能と限界」2017年
ふるさと納税制度によって控除額超過となった市町村は、地方交付税により当該超過額の75%が補填され得る仕組みとなっているが、地方交付税の不交付団体である東京都区部については、その対象となっておらず、超過分の補填がなされないため、純粋な減収となっている。
【7】再分配機能
YAHOOニュース THE PAGE 福井県知事 西川一誠のインタビュー 2018年11月24日
ふるさと納税に対しては、都市部の税収が地方に「流出」しているとの批判もある。例えば東京都の住民税の控除額(2018年度)は約645.8億円と、前年比で約39%増加。都は「応益原則(行政サービスの受益に応じて税負担すべきという考え方)に反する」と問題視する。こうした指摘に対し、西川知事は「若者は地方での投資を背負って東京に行っている」と反論する。
東京23区へは地方から約6万人の流入超過がある(2017年)。福井県の試算によると、東京側の年間の受益額は約1兆6000億円に上るという。内訳は、負担しなかった教育費(6万人×1800万円=1兆円強)と、将来の住民税総額(6万人×1000万円=6000億円)で、合わせて約1兆6000億円。
「これらはすごく大きなお金だが、リュックで背負って上京するわけではないから見えない。でもふるさと納税は金額で見えるから、大都市が損しているように見える。ただそんなことはない。損をするということではなくて、みんなで助け合って、都市から地方に自然に税源を戻している制度だと思ってもらえればいい」
【8】災害時の寄付
YAHOOニュース MONEY PLUS 2020年8月2日
ふるさと納税ポータルサイト「さとふる」では、7月4日、「令和2年7月九州豪雨 災害 緊急支援寄付サイト」を開きました。河川の氾濫で大きな被害を受けた福岡県大牟田市、熊本県人吉市、長野県上松市などで、29日現在で寄付ができるのは31自治体に増えています。これまでに約1億2600万円の寄付が全国から寄せられました。
通常のふるさと納税では、自治体が求める寄付額と返礼品をポータルサイトに載せます。災害緊急支援の場合は、1000 円以上で1円単位で自由な金額を寄付することできますが、返礼品はありません。通常、自治体がサイトに払っている手数料などはサイト側が負担し、寄付金は全額自治体に届けられる仕組みです。同サイトで初めて災害支援寄付を募ったのは、2016年4月に発生した熊本地震でした。(中略)それ以降、2018年の北海道胆振東部地震、昨年の台風19号など、各地で災害が起きるたびに特設サイトを開設してきました。最近では災害時に、SNS上で「ふるさと納税で寄付出来ないかな」という投稿が当たり前に見られるようになりました。これまで、同サイトを通して被災地に届いた寄付は、計103自治体約11億円に上ります。
【9】災害時の寄付
YAHOOニュース MONEY PLUS 2020年8月2日
例えば、熊本地震で被災した自治体への寄付を受け付ける「平成28年熊本地震災害緊急支援募金」で集まった寄付は、熊本県南阿蘇村では、被災者への災害見舞金として支給されまいした。また、地震による大規模な地すべりにより流出・破損した配水池への送水管の修繕工事費としても活用されました。2017年、昨年と豪雨被害を受けた福岡県朝倉市では、農地や農業用施設、水路の復旧、地域コミュニティ活動支援事業などに役立てられたそうです。
【10】コロナ禍の寄付
YAHOOニュース MONEY PLUS 2020年8月2日
さらに、最近では、新型コロナウイルス感染症に関わる医療関係者を支援するため、特設サイトも開設されました。サイトには15各府県が参加し、各知事が顔写真付きで寄付を呼びかけます。例えば大阪府の吉村洋文知事は、「新型コロナウイルス感染症の最前線で活動する医療従事者等の皆さんを支援するための基金です。ご協力をよろしくお願いいたします」と訴えています。
このサイトを通じては、1ヵ月も立たずに2億円以上の寄付が集まったそうです。この寄付金は、医療従事者や病院への支援金、感染防止対策などに使われています。
【11】論点1:納税が自分ごとに
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明](慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章8節第1パラグラフ)
人々がふるさと納税をする理由はさまざまであるが、この制度がユニークなことはこれが唯一自分が使い道を選択できて、唯一どのように使われたかが見える税金だということである。もっとも、正確には原資は税金であるが、お金を提供するときには寄附金に変わっているため、使い道を指定できる税金という表現は厳密には正しくはない。ただし、納税者は、そのような感覚に陥っているはずだ。普段我々は、所得税や消費税など様々な税金を払っているがどのような形で有効活用されたのかよく見えないし、実感できない。ましてや、納税をすることで誰かから感謝の気持ちを直接表現されることなどない。単なる義務なのだ。よって、通常は税金に対しての不満が高い。負担感だけあって、あまりメリットは享受できていない。それが多くの人たちの税金に対するイメージであり、それゆえに選挙での争点にもなる。しかし、ふるさと納税の場合は、寄附先の自治体から丁寧に感謝をしてもらうことができる。消費者は、そこに対する痛快感みたいなものを持っている可能性がある。
【12】論点1:返礼品目当て≠自分ごと
マイボイスコム株式会社『ふるさと納税』に関するインターネット調査 結果 アンケート期間:2019年7月1日~5日 回答数:10,065件
◆ふるさと納税で寄付をしようと思った理由
ふるさと納税で寄付をしようと思った理由は(複数回答)、「寄付の特典(返礼品)が魅力的」が寄付経験者の65.2%、「寄付をした金額は税金から控除・還付される」が52.4%、「少量の負担で、豪華な特典(返礼品)がもらえる、お得感」「寄付を通じて、自治体を支援したい」が各30%台です。
◆ふるさと納税で寄付をした自治体の選定理由
ふるさと納税で寄付をした自治体の選定理由は(複数回答)、「寄付の特典(返礼品)が魅力的」が寄付経験者の65.9%、「還元率がよい」が25.4%、「自分や家族の出身地、ゆかりのあるところ」「寄付の特典(返礼品)が地元のものである」が各2割弱です。
【13】論点1:使い道「町長一任」≠自分ごと
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章9節第5パラグラフ
寄附者側はまた異なる事情を抱える。寄附者にとっては使い道も重要であるが、特にふるさと納税初心者にとっての最大の関心は返礼品である。申し込み時に返礼品はじっくり選ぶが、使い道は何でも良いと考える人も少なくない。そういう人たちは、具体的な事業が提示されると、その内容について知る必要が出てきて手間がかかるので面倒である。先ほどの医療や福祉など6つぐらいの大枠での分野指定や、あるいは、「その他」「町長一任」という方が助かるのである。実際、「町長一任」を選択する人が最も多い、という自治体は少なくない。
【14】論点2:再分配≒恩返しの理念
地方で生まれ育ち都会に出てきた方には、誰でもふるさとへ恩返ししたい想いがあるのではないでしょうか。育ててくれた、支えてくれた、一人前にしてくれた、ふるさとへ。都会で暮らすようになり、仕事に就き、納税し始めると、住んでいる自治体に納税することになります。税制を通じてふるさとへ貢献する仕組みができないか。そのような想いのもと、「ふるさと納税」は導入されました。
【15】論点2:寄付は地域応援のきっかけに
「ふるさと納税と地域経営」2016年 株式会社さとふる取締役 髙松俊和 24ページ(ふるさと納税の実績を踏まえた発言)
こうした結果を単一方向で捉えると、一部のメディアが取り上げているように「返礼品をエサに寄付金の獲得競争をしている」「本来の趣旨から逸脱した特産品目当ての寄付になっている」といった批判的な見解になってしまうだろう。しかし、最初はおトク感に背中を押されて寄付をしつつも、返礼品を通じて地域の魅力を知ったことで、地域への応援の気持ちが芽生え、継続的なふるさと納税につながっている人が少なからずいることが読み取れる。また、徐々に寄付者の目がおトクな返礼品から地域に向きつつあることもうかがえる。したがって、金銭的なメリットがきっかけではありつつも、ふるさと納税の本来の趣旨である地域への応援にもつながっていると言うことができる。
【16】論点2:「ふるさと」が厳格でない理由
「ふるさと」に対して貢献したい、と言うとき、まず「ふるさと」として思い浮かぶのは、自分が生まれ育った地域や教育を受けた地域、両親の出身地などで幼少時の自然体験の舞台となった地域などであろう。このような地域に対する貢献は、いわば恩返しであり、このような納税者の真摯な思いを活かすことは、「ふるさと納税」の基本となる思想である。
また、両親が現に居住している地域に対し、子どもとして何らかの貢献をしたいという思いを持つ納税者も多いと考えられるし、近年は、週末など一定期間滞在しているといういわゆる二地1域居住先の地域や、ボランティア活動などを通じて縁ができ、度々訪れるようになった地域、さらには将来、自分や子どものふるさとにしたいと考えている地域などに貢献したい、応援したいと考える人も増えている。「ふるさと納税」の検討に当たっては、このような納税者の気持ちも大事にしなければならない。
このように、それぞれの納税者が「ふるさと」という言葉に対して持つイメージや考え方は様々であり、「ふるさと納税」を検討する上で、何より納税者の意思を尊重する観点から、「ふるさと」とすべき地方自治体を制度上限定することは適当ではないと考えられる。
【17】論点2:地域を離れた人が教育に寄付の例
「ふるさと納税と地域経営」2016年より、鳥取県知事 平井伸治 (対談の中での発言)178ページ
鳥取県のふるさと納税は、寄付金を「鳥取県こども未来基金」に積み立てるということで、使途を指定してスタートしたのですが、(中略)なぜ使途のメインが子どもたちなのか。それは元々寄付者には故郷を離れた人を想定しており、故郷で次の世代が育つように応援してください、という思いがあったからです。具体的な活用方法は、小学校1年生から中学校3年生までを少人数学級にする、中山間地域の保育料無償化、同一世帯の第3子以降の児童の保育料無償化、小児特別医療費助成を18歳まで、といずれも全国で一番進んだ取り組みです。
なぜこのような思い切った施策ができるかと申しますと、やはりふるさと納税の存在が大きいです。子どもに掛けられるお金はどの自治体も限られている上に、すぐに効果が出るかは分かりません。財政的に査定が非常に難しいところです。その点、鳥取県が平成27年度にふるさと納税で託されたお金は3億6000万円ありますが、これはある意味、思い切った施策を打ってくれ、と背中を押していただいているものと理解しています。
【18】論点2:地域外のニーズで地方を育てる
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章7節第3パラグラフ
従来の自治体の顧客は地元住民であるので、彼らのためにお金を使うというのが従来の発想となる。しかし、外から人や企業を呼び込むための投資となれば、使う先は外部ということになる。もっとも、税金は基本的には払う人と便益を受ける人が同一であることが原則なので、ふるさと納税に当てはめて考えると、寄附をしてくれた人たちが喜ぶような使い道に充当するのも一案だし、理解が得られやすい。つまり、もともと外部の人が出してくれたお金であるので、外部の人に使っていいお金ということになる。例えば移住してくる人に対しての支度金を町の財政から50万円なり100万円なり支払う場合は、なぜ自分たちが納めた住民税を地域外の人間に使うんだという批判が出ることがよくある。しかし、ふるさと納税を原資とすれば、そのような批判は比較的かわしやすい。したがって、移住定住の促進のため、あるいは企業が事業所を開設するための補助金を一部ふるさと納税から出すというような政策は従来よりもやりやすいはずである。
【19】論点2:地域外のニーズで育った例
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 コラム「東京都葛飾区」第19パラグラフ 葛飾区 区民活動推進部長 鹿島田のインタビュー
平成28年11月22日開館時、寄附金額の累計は目標の5億円を達成した。
「ふるさと納税に取り組まなかったら、5億円を集められないばかりか、ふるさと納税による税収の変化に対応できなかったでしょう。また、ものづくりのまちの周知と、地場産業の振興を同時に図ることもできました。
北斎美術館の建設は特定目的であることから、返礼品を伴うとはいえ、寄附者は北斎に関心のある人にセグメントされることや、北斎美術館のキャンペーンサイトでアクセス数が伸びていること、地域の産品が広く知れ渡ったことなどから、シティプロモーションとしても高い効果が得られました。開館後も、ふるさと納税をキャンペーンツールとして使う方針です。
建設前は、区民の間で他の施策に予算を回してはどうか、といった意見もありました。しかし、ふるさと納税として全国から寄附金が集まり、その経過を北斎美術館のキャンペーンサイトで報告し、目に見える形で支援の輪が広まっていることを実感するにつれ、区内では美術館完成への期待が高まっていき、北斎ゆかりのまちの住民としての愛着や一体感が醸成されていきました。」
【20】論点2:地域外のニーズで地方を育てる弊害
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第2章9節第4パラグラフ
ふるさと納税の場合、納税者と便益を受ける人が異なることがあるが、そこでの使い道の意思決定者は誰であるべきかという議論である。使い道に具体的な事業を示す場合、ユニークなものほど域外の人たちの目に留まる可能性が高い。一方、自治体として本当に困っているのは、下水道の整備や町の橋の補修など域外の人たちにとっては面白みの欠けるものかもしれない。その場合、訴求力が弱まり、あまり寄附金を集められない可能性がある。つまり、使い道で差別化をしようと思えば、ユニークさ競争、面白み競争に陥る可能性がある、その場合、本当に必要なところにお金が流れていかない可能性があるのだ。
【21】論点3:自治体経営の意識
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 序章第9パラグラフ
ふるさと納税が自治体、特に地方の自治体にもたらしたものは、自治体は運営するものだという従来の概念を、経営するものだという意識を変換したことである。具体的には、自治体に対してイノベーションとマーケティングという2つの視点を入れ込んだことが一番大きな貢献だ。
【22】モニタリング効果
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 TOPICS 2節第2パラグラフ
地方自治体の財政規律のモニタリングはこれまで、地域内の納税者である個人及び企業、そして地方債の債権者、並びに地方財政制度上のモニター役としての中央政府の総務省及び財務省にもっぱら委ねられていた。
しかしふるさと納税により、寄附者が地方自治体の実施したい政策の財源調達の大きな担い手になってくると、寄附者は地方自治体の政策実施に対する財政規律のモニターにビルトインされることになる。たとえば、ふるさと納税の寄附者は効果的ではないと判断したある自治体の政策をファイナンスするふるさと納税をやめ、もっと効果的だと思われる別の自治体の政策をファイナンスするふるさと納税に切り替えるかもしれない。
このような政策効果を巡る「ふるさと納税の地域間移動」が大きな波になれば、効果的でなない政策をふるさと納税による財源をあてにして実施しようとする地方自治体には、厳しい財政規律の担い手になるだろう。財政規模が小さく、ふるさと納税に依存する度合いの大きい地方自治体では、このモニタリング効果は大きいものになると予想される。
【23】論点3:自治体経営の意識
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 序章第11パラグラフ
上手に一般消費者に選ばれる自治体になることができれば、寄附金を得ることができる。これは、一般消費者に対して自治体がうまくマーケティングを行っていく必要があることを意味する。特に、今やふるさと納税において、返礼品を提供する自治体が大半を占める中では、返礼品として提供する地元の特産品の魅力度合いのアピール、マーケティングも重要なポイントである。つまり、今や自治体運営は大きなターニングポイントを迎えており、自治体は運営するものから経営するものへとその形を変えつつある。もっとも、行政サービスという意味では従来同様、公平、公正な住民サービスの提供が主となる。故に、自治体が完全に企業経営みたくなるというわけではない。しかし、経営視点を兼ね備えた自治体がより多くの資金を獲得し、より充実した住民サービスを提要できるようになるので、経営視点が重要になることは間違いない。これは、自治体の足腰を鍛えるという意味では、ふるさと納税の功績の一つと言える。
【24】論点3:自治体経営の意識
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 序章第13パラグラフ
ある自治体の職員の言葉が非常に印象的だったのだが、彼はふるさと納税の使い道を検討する状況になり、自分が役場の職員となって初めて前向きな仕事をしたと語っていた。投資をして、収益を上げ、未来を創るという企業なら至極当然のプロセスであるが、多くの自治体のとっては、初めての取り組みに近い。
【25】論点3:地方経済波及効果
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第1章2節第2パラグラフ
肝心の返礼品については、地元のものを返礼品として提供すれば、その経済波及効果は当然のことながら大きくなる。雇用の増加、新たな設備投資などが期待できるからだ。また、地元の事業者が潤えば、給与増、法人税のアップなども期待できる。通常の自治サービスでは、経済波及効果を生み出すことはなかなかできない。公共事業を行えば、一時的な雇用の創出は可能であるが、持続的ではない。ふるさと納税での返礼品の提供というのは、自治体による地元の特産品の買い上げという側面はあるものの、経済波及効果を生み出すという点では、これまでの自治体による取り組みにはなかった効果を提供している。
【26】論点3:消費者の情報収集
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第1章3節第1パラグラフ
実質的な経済負担が2,000円で、様々な返礼品を受け取ることができるのでお得だということが大きいが、もう一つ、様々な地域の特産品を発掘する楽しみもある。知らなかったものを知る喜び、食べたことのなかったものを食べる喜びである。例えば、平成26年度にふるさと納税による寄附先として最も大きな金額が集まった長崎県平戸市では、ウチワエビという海老が返礼品として人気である。このウチワエビは、認知度は高くないがその触感や味わいは伊勢海老と並ぶほどと言われている。自治体がふるさと納税をきっかけとして、地元の特産品を一生懸命アピールすることで、一般消費者はそういう今まで知らなかったものに出会うことができる。
【27】論点3:地方経済波及の実例
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第1章3節第1パラグラフ
また、平戸市へのインタビューによると、地元の特産品をふるさと納税の返礼品として提供するようになってから、商品の改善、改良が進み、商品力が向上したとのことである。例えば、これまで8個入りで販売していたかまぼこを、首都圏の単身世帯でも食べやすいように、また、お試しで少量をトライしたいというニーズに応えるために2個入りでの販売も開始したとのことである。これは取扱商品のSKU(販売単位)の変更に該当する。ほかにも、商品パッケージ、商品タイトル、商品の説明書の変更などを行っているが、それらはすべて目と舌の肥えた首都圏の消費者に選ばれるような商品づくりをしようという意識の変化が、ふるさと納税によってもたらされたことが根底にある。また、地元の事業者、漁師、農家は、ふるさと納税の返礼品に取り上げてもらうべく新商品の開発に余念がないとのことだ。これまで、彼らの商品は地元で流通するのみにとどまっていたが、ふるさと納税をきっかけとして全国的に人気となることで大きな手ごたえを感じ、さらなるやる気に繋がり様々な工夫を行うようになったということである。今では平戸市は、それら商品を独自のインターネットショッピングサイトで販売するようになっており、商流をふるさと納税の範囲外に積極的に拡大している。これはまさに、ふるさと納税が地元のビジネス創出に繋がったひとつの事例といえる。
【28】論点3:負の地方経済波及効果
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第1章3節第5パラグラフ
通常の購買であれば届けられた品がおいしくなかった、見た目が悪かった、梱包が雑だったなどがあった場合、消費者は商品の交換を要求する、クレームを入れるなどをする。このようなクレームは、事業者を鍛えることになる。しかし、返礼品としてタダ同然で受け取った場合、寄附者は事業者に対してクレームをいれることはあまりないであろう。タダ同然なのだから仕方がないという判断をすることになる。消費者の声が事業者に届くことがないため、事業者は成長しない。しかし、事業者にとっては注文が増えているので、成長をしているような錯覚に陥る。本来は商品、パッケージデザイン、梱包方法などの改良などにリソースを使わないといけないところを規模の拡大を優先し、中にはつい借金などをしてしまって、最後にバブルが終わる。これだと、地場産業の育成につながるどころか衰退させてしまう、ということになる。
【29】論点3:地方経済波及効果
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第1章5節第3パラグラフ
ふるさと納税での返礼品の提供は、農家や漁師にとっては、通販やネットショッピングを開始する前のお試しやトレーニング期間にもなる。返礼品だから求められる水準は高くない。これは、商品そのもののクオリティではなくて、発送日指定や梱包、配送など、付随業務についてのことである。しかし、これら付随業務こそが農家や漁師にとっては未体験ゾーンであり、通販やネットショッピングに及び腰になる理由でもあるのだ。平戸市のように梱包、発送に共同の場所を作ってしまえば、今後通販やネットショッピングを開始する際もそのプラットフォームを用いればいいのであり、これは、地域全体としての商売力の向上を意味する。このように、ふるさと納税は、各地域の商売力を高めることに貢献しているのである。
【30】論題3:自治体にとって政策コンテスト
「ふるさと納税と地域経営」2016年より、鳥取県知事 平井伸治 (対談の中での発言)179ページ
なぜこのような思い切った施策ができるかと申しますと、やはりふるさと納税の存在が大きいです。子どもに掛けられるお金はどの自治体も限られている上に、すぐに効果が出るかは分かりません。財政的に査定が非常に難しいところです。その点、鳥取県が平成27年度にふるさと納税で託されたお金は3億6000万円ありますが、これはある意味、思い切った施策を打ってくれ、と背中を押していただいているものと理解しています。通常とは違うスペシャルなお金が入ってくるのであればスペシャルなことをしよう、という自治体が増えていけば、ふるさと納税の中で政策のコンテストが始まるという気がしてます。交付金や地方税とはまた別の財源が入るというふるさと納税の寄付金は、地域の未来に焦点を当てた投資を行う上で首長さんにとって非常に大きなチャンスといえます。
【31】論点3:競争資金獲得制度
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第3章2節第2パラグラフ
ふるさと納税が、自治体間の競争を促進し、マーケティングの上手な自治体がお金を多く集めるという性質からは、これは再分配の原資と捉えるのではなく、自治体にとっての競争的資金の確保という意味合いで理解する方が適切である。再配分機能は、どの地域に住む国民にも一定の行政サービスを提供できるよう財源を保障するためのものであり、それを競争させる資金であるふるさと納税に一部代替させると、寄附金集めの下手な自治体では一定の行政サービスが提供できなくなる恐れもあり、うまく機能しない。地方交付税のような再分配機能は、一定の行政サービスを保障するために黙っていても国から降ってくるお金である一方、ふるさと納税はより魅力的な街づくりができるように自治体が積極的に取りに行くお金ということになる。
ふるさと納税に反対する都市部の自治体の反対理由にも、地方への再分配は地方交付税で済んでいるのだから、それ以上で再分配をするのはむしろ不公平だというものが出てくる時がある。しかし、都市部の自治体もふるさと納税に取り組めばお金を調達することが可能であり、取られるだけで終わるものではない。その意味からも、やはりこれはあくまでも競争資金の確保のための制度である。
【32】論点3:競争資金獲得制度
「ふるさと納税の理論と実践」 2017年 神戸大学大学院経営学研究科准教授 保田隆明 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授 保井俊之 第4章4節第3パラグラフ
住民税の2割が各個人がふるさと納税をする金額の上限である。もっとも、この上限の金額を超えてふるさと納税をすることも可能であるが、その場合はその超過金額に対しては税金上のメリットを得ることができない。したがって、どの自治体も住民税の8割は絶対に失うことのないお金ということになる。ふるさと納税とは、国から各自治体に対して、「住民税の8割は保証するのでそのお金で通常の行政サービスを実施しなさい、残りの2割のお金は全自治体が拠出し、その拠出したお金を全自治体が競争して取り合ってください」とする構図と考えることができる。