ギャンブル課税
論題
日本政府は公営ギャンブルから得られる所得に課税するべきである。是か非か。
プラン
宝くじを含め、すべての公営ギャンブルによる所得に源泉徴収制度を導入する。
モデル
肯定側立論
メリット
公平な課税
現状の問題1
現在、宝くじ当選による所得は非課税である。
ヤマダ総合公認会計士事務所 2019年9月11日 No.501
周知のように、年末ジャンボやロト6、ミニロトなどの宝くじの当選金は非課税ですが、これは『当せん金付証票法』において、個人が受け取る当選金は非課税と定められています。所得税だけでなく住民税も非課税なので、翌年の住民税に影響しません。
現状の問題2
2 競馬等の公営ギャンブルによる所得は十分に補足されておらず、適正な課税がされていない。
朝日新聞 2018年10月10日 朝刊
競馬や競輪などでの高額払戻金について会計検査院が調べたところ、1千万円以上の『大穴』で当たった金額の8割ほどは税務申告されていない可能性があることがわかった。主催者側から聞き取った2015年の払戻金約127億円に対し、税務申告されたとみられるのは二十数億円だったという。…(中略)…払い戻しをする窓口では当選券が確認できればよく、当選者の本人確認が行われていない。ネットで購入した場合でも、国税関係者は『自主申告がないと、税務署が把握するのはなかなか難しい』と話す。15年に税務当局が高額払戻金の申告漏れを把握した約10件について検査院が調べたところ、どれも払戻金以外の調査をきっかけに発覚したものだったという。
現状の問題3
3 ギャンブルから得られた所得の間で扱いが統一されておらず、不公平である。さらに、課税されるものについても、たまたま見つかった人のみが課税されることになっており、賦課徴収が恣意的で不公平である。
高橋祐介「馬券の払戻金と所得税制」法学教室398号(2013年)38頁、44頁
…(資料作者注:大阪地裁平成25年5月23日判決の納税者について)本件納税者がかなりのもうけを得、かつそのことがA-PAT(資料作者注:インターネット馬券購入システム)により明らかにされたために課税が問題となり罪を問われたとすれば、賦課徴収の恣意性が問われよう。窓口で払い戻しを受けた馬券購入者の所得を確実に捕捉する制度を構築せず、またする気もないという意味で、制度的に賦課徴収が公正ではないと評価できる。
重要性
不公平な課税を続ければ、社会の活力が低下する。
平成16年税制調査会「あるべき税制の構築に向けた基本方針」
…税負担の歪みや不公平感を生じさせている税制上の諸措置を放置した場合には、国民の税制への信頼、社会参画への意欲を失わせ、社会の活力を低下させるおそれがある。社会共通の費用を国民皆が広く公平に分かち合うという観点から、こうした措置の適正化を図っていく必要がある。
プラン
宝くじを含め、すべての公営ギャンブルによる所得に源泉徴収制度を導入する
解決プロセス
ギャンブル収入に源泉徴収を導入することで公平な課税が達成される。
高橋祐介「馬券の払戻金と所得税制」法学教室398号(2013年)38頁
馬券の払戻金に係る所得が一時所得であれ雑所得であれ、特に窓口での払戻金を正確に捕捉し公平な課税を実現し、また本件納税者のように納税資金調達に悩まないために、払戻金への源泉徴収制度を導入すべきである。
否定側立論
デメリット
公営ギャンブルの売上低下による国庫納付金の減少
現状とプランの違い1
現在、公営ギャンブルで得た所得に十分に課税されておらず、多くの人がギャンブルにお金を使っている。競馬の売上は3兆円弱に上る。
2019年12月28日 18時53分スポーツ報知「19年JRA総売り上げは2兆8817億円超 8年連続増!」
JRAは12月28日、速報値として2019年の総売り上げと入場者数を発表した。総売り上げは2兆8817億8866万1700円で、前年比3・1%増と8年連続のアップ。開催競馬場への総入場者数は623万6197人で、前年比0・5%減となった。平地G1の総売り上げは1・7%増で、こちらも8年連続で前年よりアップ。入場者数も3・1%増で、ともに全24レース中15レースで前年を上回った。
現状とプランの違い2
宝くじ・ロト7等の売上は1兆2000億円を超える。
時事コムドットニュース2019年10月29日07時21分
都道府県や政令市が2018年度に販売した宝くじの売上額が前年度比2.3%増の8046億円だったことが28日、総務省のまとめで分かった。増加は3年ぶり。前年度は、ジャンボくじの不振などで20年ぶりに8000億円を割り込んだが、『ロト7』や『ナンバーズ』といった数字選択式くじが好調で売り上げ増に寄与した。数字選択式くじの売上額は4.3%増の3963億円。ロト7の1等最高賞金額を4億円から6億円に引き上げたことが貢献した。当せんしたかどうかをその場で確認できるスクラッチくじも12.4%増と人気だった。
現状とプランの違い3
公営ギャンブルの売上の一部は、国庫納付金として畜産事業振興や地方団体の財源となっている。
伊藤嘉規「勝馬投票券と所得課税」富大経済論集 61(3), 265-306, 2016
… JRA には国庫納付金というものが存在している。この国庫納付金の仕組みは,例えば 100 円の勝馬投票券を買うと,10円が国庫に納付される。これが第1国庫納付金と呼ばれるものである。またもう一つ別のものがあり,JRA が行った事業の結果,利益を生じた場合には,その額の 2 分の 1 が国庫に納付される。これが第 2 国庫納付金と呼ばれるものである。以上のことを,日本で売られている当せん金付証票法の対象となる宝くじと比べて見た場合,宝くじは,自治体への納付 が 40.1%,経費として 11.6%,広報費として 1.0%,となっている。
問題発生プロセス
ギャンブルに対する課税が重くなれば、ギャンブルの需要は低下する。
David Paton, Donald S. Siegel and Leighton Vaughan Williams, “Taxation and the Demand for Gambling: New Evidence from the United Kingdom” National Tax Journal Vol. 57, No. 4 (2004), pp. 847-86, 翻訳:漆さき
2001年10月、英国政府は賭博に対する課税を変更し、英国に所在する賭博の胴元の課税は大幅に軽減された。この出来事の前後のデータを使い、この減税に対する需要の反応につき、計量経済学的な実証分析を行った。この研究の結果では、賭博の胴元に対する需要は税率に対して極めて敏感であり、課税の軽減はUK国内での賭博需要を大きく増加させることとなった。この英国の政策は、賭博課税の変更を考慮する他国の政策立案者に対して有益な情報を与えることとなるだろう。
深刻性
公営ギャンブルからの国庫納付金が減ることで公共サービスが低下し、地方社会が消滅する。
存続意義を失う地方都市 2019年12月17日(火)16時45分 江頭 進(小樽商科大学商学部教授)
自治体収入の悪化による公共サービスの質の低下が、地域の崩壊を加速させることは、夕張市の例などですでに知られており、これが人口の社会的移動をさらに促す。人口減少に対応して地域をコンパクト化できたとしても、長きにわたって歴史を紡いできた日本の地方社会の多くが消滅することは不可避だろう。
資料集
【1】ギャンブルによる所得への過少課税
会計検査院平成29年度検査報告④競馬等の払戻金に係る所得に対する課税状況
本院は、…競馬等の高額な払戻金に係る所得について、一時所得又は雑所得として適正な申告が行われているか、税務署等の税務調査等による所得の補足が有効なものとなっているか等に着眼して検査した。…高額単位払戻金531口、127億4476万円余円に係る所得の申告の状況について検討すると、高額単位払戻金100億円程度に係る所得については、その多くが申告されていないものと考えられる。…また、高額単位払戻金531口について、税務調査等による所得の補足の状況をみたところ、競馬等の払戻金の支払があったことを十分に補足することなどが困難な状況になっていると認められた。
【2】国庫納付金は課税と同じ?
2015年04月18日朝日新聞朝刊
そもそも競馬の売り上げのうち、1割は国庫に入るとされており、払戻金から更に税を負担させるのは、実質的な二重課税であるとの指摘がなされている。諸外国でも、アメリカ合衆国でははずれ馬券の購入費も払戻金の額に達するまでは必要経費として算入されるものとされており、フランスでは、馬券購入時に定率(3・8%)の税が課せられるだけで、その他に税負担はない。
【3】国庫納付金の増収をめざせ
2013年07月06日朝日新聞朝刊 朝日新聞記者 有吉正徳(記者有論)馬券と課税 非課税で売り上げ増やせ
JRAでは、おおまかにいって、馬券の売り上げの75%が払戻金となり、15%は賞金などの事業費用に充てられ、残る10%は国庫納付金になる仕組みだ。昨年の例でいえば、売り上げは約2兆4千億円。およそ2400億円が国庫に入った。一昨年4月、JRAは最高2億円の払戻金があるWIN5(ウインファイブ)というインターネット専用の馬券を導入した。競馬ファンの誰もが課税の心配をしなければならない時代になったといえる。 こんな時代だからこそ、ファンがのびのびと馬券を買える環境を整え、国庫納付金の増収を目指すことの方が、より現実的な方策だと思う。当たった人も外れた人も同じ割合の国庫納付金を担う。パソコンなどを通じて買って購入履歴が残る人と、紙の馬券で記録が残らない人との間に生じる不公平感もなくなる。」
【4】公営ギャンブルの欺瞞
一橋大学名誉教授 森村進「マイケル・サンデルのコミュニタリアン共和主義」一橋法学11巻2号1-41頁、14頁(2012年)。
…私は、民間の賭博は禁止しておきながら宝くじを運営する州の態度を批判する第8章『州営宝くじに反対する』には快哉を叫んだ。ここでサンデルは主張する。-もしギャンブルが不道徳でないというならば『なぜ民間企業に開放してはいけないのだろうか?』(111頁)。しかし実際には宝くじは『民主的な生活を支える労働倫理、自己犠牲、道徳的責任とは相容れないメッセージ』(115頁)を与え、市民を堕落させている。不道徳な活動でも政府が行えば道徳的になるわけではない。州政府は、たとえ多大な歳入をもたらすとしても宝くじというギャンブルから手を引かなければならない―。
【5】公営ギャンブルと富の再分配
名古屋大学教授 高橋祐介「馬券の払戻金と所得税制」法学教室398号(2013年)38頁
第二に、宝くじや公営ギャンブルのあり方である。前述の不公正な税務執行以外にも、何億円もの賞金を特定人に与えることと、税法や社会保障法が目指す富や所得の再分配という目的の矛盾は大きい。宝くじは社会的弱者からの歳入調達手段であるという指摘もあり、宝くじや公営ギャンブルによる歳入調達の是非が問われる。
【6】ギャンブルに課税することの逆進性
早稲田大学大学院会計研究科教授 栗原克文「カジノ税に関する一考察」經營と經濟, vol.89(1), pp.17-34; 2009
カジノ税の納税義務者はカジノ事業者となるが,その税負担はどのような所得階層により負担されやすいのだろうか。税負担の逆進性についてカジノのある地域とカジノのない地域とでどちらが高いかについて,ミシシッピー州におけるカジノ税の帰着を考察した研究によると,カジノのあるカウンティにおいてより逆進的との結果が示されている。同研究では,一般に低所得者ほどカジノへの参加率が高くなることが伺える。また,教育水準が上昇するにつれて,その地域のゲーミング歳入が減少するという傾向もあると指摘されている。また,米国の売上税との比較において,カジノ税はより逆進的との分析もある。
【7】恣意的な課税が売上に与える影響
日経新聞2013年12月28日朝刊
馬券の払戻金は、課税の難しさから半ば尻抜け状態だったが、購入記録が追跡しやすいネット投票の普及で事情が変わった。中央競馬は国の収益事業で、売り上げの1割が国庫に入る。…国会には今月、カジノ解禁に向けた法案が提出されたが、差益への課税方法は論議もされていない。カジノにも詳しい競馬評論家の須田鷹雄氏は『近年のカジノは電子化が進み、金の動きを綿密に把握できる。今回の国税のように利益が出た時だけ、つまみ食い的に課税されれば、カジノに行く人はいなくなる』と話す。合理的な課税のあり方が提示されない限り、ファンと業界のもやもやは残る。
【8】課税と他の制度の不整合
高橋祐介「馬券の払戻金と所得税制」法学教室398号(2013年)38頁、43頁。
所得計算上、ある損失とほかの源泉からの所得との通算を認めることにより、(他源泉所得に係る税を免れしめるという形で)損失の一部を国が負担し、かつ損失が生じやすい事業や投資を、所得税正常中立的に扱う。言い換えれば、損失控除制限は、その制限のかけ方により、損失を生じる行為を抑制する。①外れ馬券購入額の控除を認めず、かつ②実際にそのような賦課徴収が行われている限り、所得税制が大量継続的な馬券購入を抑制しているとみることも可能である。しかしまず、所得税による馬券購入抑制が馬券購入を促進している制度と整合的か問われる。また、大量継続的馬券購入が完全に抑制されていないのは、②が欠けている。つまり実際にそのような賦課徴収がこれまでほとんど行われていないことを示している。本件納税者がかなりのもうけを得、かつそのことがA-PATにより明らかにされたために課税が問題となり罪を問われたとすれば、賦課徴収の恣意性が問われよう。
【9】競馬の国庫納付金の使い道
MN シゴト編集部「競馬の売上の使い道」2017/10/05
…『日本中央競馬会法では、JRAの国庫納付金の4分の3相当額を畜産振興事業に、4分の1相当額を社会福祉事業に充当すると定められています。』つまり、100円の勝馬投票券のうち10円が国に納められ、畜産振興事業や社会福祉事業などに使われるというのだ。同じように宝くじも、発売総額の約40%が、地方公共団体が行う公共事業やスポーツ・レクリエーション振興事業などの財源に充てられている。
【10】宝くじの国庫納付金の使い道
宝くじは、販売総額のうち、賞金や経費などを除いた約40%が収益金として、発売元の全国都道府県及び20指定都市へ納められ、高齢化少子化対策、防災対策、公園整備、教育及び社会福祉施設の建設改修などに使われています。
【11】公営ギャンブルの地方財政への貢献
中国新聞2019年12月23日「公営ギャンブルV字回復8場黒字」
地方財政への貢献が目立つのはボートレースだ。児島(倉敷市)は繰り入れが11億円で前年の5.5倍、徳山(周南市)は7憶円で2.6倍、下関(下関市)は17億5千万円で2.3倍となった。…場外舟券売り場を置く自治体にも恩恵が広がる。16年に誘致した山口県田布施町には周南市から協力金が入り、昨年度は4149万円で過去最高。同町の亀田典志総務課長は『子どもの医療費無償化などにあてている。財源が厳しい中、大変ありがたい』と喜ぶ。
【12】ギャンブルから得られるもの
実践女子大学教授 松田義幸『ギャンブルに関する学際研究』日本リゾートクラブ協会スポーツ産業寄附講座平成6年度研究報告シリーズ
人がギャンブルをするのは、金が欲しいためばかりでなく、その他いろいろな理由があるのである。この『その他のいろいろな理由』には『効用』を増大させようとする試みも含まれているのである。ということは、リスクを避けるという想定は全人にあるいは平均的人間に適用すれば間違いであり、限界効用説も余計な理論ということになる。ギャンブルは、それから得られる効用がそのコストないし価格(ギャンブルの価格)より大きければ合理的だと言うことができるのである。『ギャンブルから得られる効用』が消費者に効用をもたらすものが何であれ、その価値をきめるものである。…ギャンブルは時間を消費するが、効用をもたらし、さらに利益をもたらす可能性のある活動なのである。ギャンブルが投資に似ていると言われるのは『利益をもたらす可能性がある』という点のみが強調されるためである。ギャンブルには消費と投資という両面があるのである。さらに、『ギャンブルから得られる効用』は『ギャンブルの価格』が減少すると、逆に増大するという傾向をますために問題が複雑になってしま う。ギャンブラーが勝てば勝つほど『ギャンブルの価格』は減少し、『ギャンブルから得られる効用』は増大するのである。
【13】パチンコ業界は法人税脱税の常習犯
ライター 簗瀬 七海&加藤 秀行「人税の脱税額、ワースト1位はパチンコ業界 1件あたり4700万円、2位に1000万差」2011/11/12 Moneyzine
国税庁はホームページ上で11月上旬、「平成22事務年度法人税等の調査事績の概要」を発表した。同調査は、平成22年7月1日から平成23年6月30日までの法人税、法人消費税、源泉所得税の調査事績である。 同調査によると、法人税の不正で発見割合の高い業種は、「バー・クラブ」が50.9%で1位、2位に「パチンコ」40.4%、3位が「廃棄物処理」31.3%となった。4位は「土木工事」30.2%、5位は「一般土木建築工事」29.7%が並んだ。「パチンコ」は不正発見割合では9年連続で2位となっている。また、法人税の不正申告で、1件当たりの不正脱漏所得金額の大きかった法人の業種は、「パチンコ」の4699万3000円でワースト1位。2位は「産業用電気機械器具製造」の3488万6000円、3位が「電子機器製造」の33547000円となった。1位と2位の差は1000万円以上あり、脱漏額の大きさが目立った。
【14】ギャンブルと他のギャンブルとの競合関係
早稲田大学大学院会計研究科教授 栗原克文「カジノ税に関する一考察」經營と經濟, vol.89(1), pp.17-34; 2009
カジノと他のギャンブルとの関係では,カジノと他のギャンブルとが競合関係にあり,税収が代替的なものがあるとの分析が示されている。例えば,スロットマシンからのカジノ税収が増加すると,宝くじからの収益が減少する傾向がみられるという。
【15】パチンコによる所得は捕捉されていない
「パチンコ愛好者に悲報!? 新たに導入されるかもしれない『パチンコ税』の仕組みは?」 税理士ドットコムトピックス 税金・お金 2014年07月27日
久乗哲税理士に聞いた。『現在、法律で認められているギャンブルは、公営ギャンブルである競馬などが挙げられます。競馬では、馬券の発売総額から、主催者の収入などを『控除』という形で差し引いて、残りを的中者への配当金にあてています。たとえば、中央競馬の単勝、複勝の控除率は20%です。このうち半分の10%が第1国庫納付金として、国に納付されています。すなわち、馬券を100円購入すると、10円は税金として控除され、国庫に入るのです』では、パチンコはどういう扱いになるのだろうか。『パチンコは現在、ギャンブルではないとされています。パチンコで『勝った金』といっても、景品交換所で換金したお金ですので、競馬のように税金などを『控除』することはできません。本来ならば、パチンコによる所得にも、所得税を課すべきなのですが、客が申告する形になるので、税務署が捕捉しきれていないのが現状です。ほとんど課税されていないといっていいでしょう。』