肥満税

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論題

日本は肥満税を導入すべきである。是か非か

プラン

  • 飽和脂肪酸や砂糖を含む食品に対して一定の税を課します。
  • 税収は一般財源とし、使途を定めないものとします。

モデル

肯定側立論

メリット

「健康被害の防止」

現状の問題1

清涼飲料や菓子類に含まれる果糖は、健康被害を引き起こします。

資料の2番を引用します。

 清涼飲料や菓子類などに含まれる「果糖(フルクトース)」が、食品のカロリーを高めるだけでなく、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクも高めているという研究が、医学誌「British Medical Journal」に発表された。フルクトースは果物や野菜、フルーツジュース、ハチミツなど、さまざまな天然の食品に含まれているが、多くはコーラやジュースなどの清涼飲料や、お菓子やスイーツなどの加工食品から摂取されている。

現状の問題2

日本には肥満症の方が1100万人います。

資料の3番を引用します。

 日本でも食生活やライフスタイルの欧米化に伴い,肥満人口は増加の一途をたどり,今や推計2300万人に達している。このうちの約半数は病気を持たない“健康な肥満者”である。残りの半分にあたる1100万人は糖尿病や高脂血症,高血圧症,膝関節症などの生活習慣病を合併しており,これが医師の治療を必要とする「肥満症」である(中略)肥満症ははっきりとした病気であり,見過ごすことはできない。肥満症の人は体重を落とすだけで糖尿病などの種々の生活習慣病を改善することができ,これらの根本的な解決にもつながる。

このような人たちを救わねばなりません。

プラン

  • 飽和脂肪酸や砂糖を含む食品に対して一定の税を課します。
  • 税収は一般財源とし、使途を定めないものとします。

解決プロセス

課税により、清涼飲料や菓子類の消費を抑えることができます。

資料の7番を引用します。

 OECDの肥満ランキングでは米国に次いで2番目のメキシコ。肥満と糖尿病を減らすため、2014年から砂糖税を導入している。その結果、課税後、1年間のジュースの消費額は前年比で6%減少し、飲料水の売り上げは4%増加するなど、ジュース離れへの効果が表れている。

よって、健康被害の原因となる糖分の摂取量が減り、健康被害を防止できます。

重要性

国民の健康を守るのは国家の義務です。

資料の9番を引用します。

 日本国憲法では、すべての国民は健康で文化的な生活を営むことを保障している。たとえ国民一人ひとりが十分な医学的知識を持つことがなくとも、政府や地方自治体の積極的な政策の傘で、住民全体を守っていかねばならない。(中略)各国政府には自国民の健康に対する責任があり、その責任を果たすためには、十分な健康対策と社会的施策を行わなければならない。

よって、国民の健康を守るために、日本は肥満税を導入すべきです。

否定側立論

デメリット

低所得層への負担

現状とプランの違い

現状の税制度は、低所得者よりも高所得者から多く徴求する仕組みになっています。

消費者に一律の税を課す消費税も、軽減税率によって低所得者の負担を緩和しています。 資料の13番を引用します。

 食料品などの生活必需品の例を考えると、消費税率の引き上げで特定の食料品に掛かる消費税は一定額上がる。結果として、所得に関係なく一定の税負担は増える。そうなると、低所得者の税の負担感はより大きくなることが想定される。それを消費税の逆進性という。 この問題を解消するためには、生活必需品などを中心に税率を抑えることが解決策の一つになる。相対的に所得の少ない人が感じる負担を軽減することができる。

このように、現状は低所得者に配慮した税制度となっています。

しかし、プランを導入すると問題が発生します。

プラン

  • 飽和脂肪酸や砂糖を含む食品に対して一定の税を課します。
  • 税収は一般財源とし、使途を定めないものとします。

問題発生プロセス

肥満税は、低所得層ほど負担が大きくなります。

資料の11番を引用します。

 低所得な世帯ほど、不健康な食品を購入していると言われています。カップラーメンや、ドーナツ、ファーストフードなどは購入価格が安いためです。不健康な食品に税を課すのは、低所得者世帯の家計をまさに狙い撃ちするようなものだという意見が多くあります。

このように、肥満税は低所得層に一方的に税負担を強いるため、デメリットが発生します。

このデメリットは、2つの観点から深刻です。

深刻性1

不公平な税制は憲法違反であり、許されません。

資料の17番を引用します。

 租税平等負担主義の原則は、日本国憲法第一四条に定める平等の一般原則をその根拠とする。また、租税法律主義の原則は、日本国憲法の第八四条に定める租税と法律をその根拠とする。租税法律主義の原則に基づき国会が租税法を制定改廃する場合に、租税平等負担主義の原則を遵守すべきことは当然の法理であり、租税平等負担主義の原則に反する租税法の制定改廃は憲法違反になるべきである。

よって、肥満税は導入すべきではありません。

深刻性2

日本は貧困率が高いため、肥満税で苦しむ人も非常に多いです。

資料の18番を引用します。

 世界第3位の経済大国でありながら、日本には高い貧困率という問題が存在している。7人に1人が貧困にあえぎ、1人親世帯では半数以上が貧困に苦しんでいる。

このように、多くの人を苦しめることになるため、肥満税の導入は認められません。

資料集

【1】デンマークの脂肪税

Exciteニュース2012.11.30

 デンマーク政府は先日、世界で初めて導入した高脂肪食品への課税制度、いわゆる「脂肪税」を廃止すると発表した。消費者や食品業界の強い反対でいったんは見送られたが、肥満者が多い国民の健康増進を図るとして根強く説得、昨年10月に導入したばかりだった。導入からおよそ1年という、国民の健康に与える影響を検討するには早い撤廃の背景には何があったのか…。
 脂肪税は、2.3%以上の飽和脂肪酸を含むバターや乳製品、肉類などの食品を対象に、飽和脂肪酸1キロ当たり16クローネ(約230円)を課税。例えば、250グラム入りのバターでは2.1クローネ(約30円)の値上げとなった。
 この制度は2009年に政府が提案、2010年に議会を通過したが、上記のように価格上昇につながることから低所得者層や食品会社から強い反対が起こった。また、脂肪税導入で年間約2億ユーロ(約210億円)の増収との政府試算がある一方、消費者の負担増、消費減に伴う売り上げ減少、食品会社の雇用減少、本来必要な量を購入できないためにかえって健康悪化を招く懸念もあると指摘されていたという。
 英放送局BBCや英医学誌「BMJ」などによると、脂肪税導入以降、食品会社の管理費用が増大するのに伴い、雇用状況が悪化。さらには、消費者がより安い食品を隣国のドイツやスウェーデンで購入するようになったという。
 今回の脂肪税撤廃に伴い、来年初頭から導入予定だった加糖食品への課税(砂糖税)も凍結されることになった。報道によると、すでにチョコレートや清涼飲料水などへの課税は行われていたが、新税制ではヨーグルト、ジャム、ケチャップなども対象になる予定だったという。
 こうした政府の判断に対し、BMJニュースではデンマーク国立研究所健康委員会委員長の見解を紹介。脂肪や糖質摂取の減少による健康上のエビデンス(根拠となる研究結果)は十分にあり、今回の税撤廃は性急との考えが示されている。
 健康増進の効果はすぐには実感しにくく、世界的な不況で「増税」に対するも厳しい。今回は、健康上で期待できる効果が経済上のリスクに代え難いと判断されたようだ。

【2】果糖は病気の原因

日本肥満症予防協会 2018.11.29

清涼飲料や菓子類などに含まれる「果糖(フルクトース)」が、食品のカロリーを高めるだけでなく、2型糖尿病や心血管疾患の発症リスクも高めているという研究が、医学誌「British Medical Journal」に発表された。
 フルクトースは果物や野菜、フルーツジュース、ハチミツなど、さまざまな天然の食品に含まれているが、多くはコーラやジュースなどの清涼飲料や、お菓子やスイーツなどの加工食品から摂取されている。
 世界のフルクトースの消費量は急速に増えている。米国人はフルクトースなどの糖質を多く摂取しており、4人に1人は1日に200kcal以上を摂取しており、5%は500kcal以上を摂取しているという。これは角砂糖(4g)に換算すると13~32個分に相当する。
 そして、ジュースやコーラなど清涼飲料や菓子類などの甘味の強い加工食品の多くに「果糖ブドウ糖液糖」や「ブドウ糖果糖液糖」が甘味料として使われている。
 コーンスターチ(トウモロコシから作られたデンプン)などから製造される「果糖ブドウ糖液糖」は、果糖(フルクトース)とブドウ糖(グルコース)を主成分とする異性化糖。工業的に安定して生産でき、価格が安いので、多くの食品に用いられている。

【3】日本の肥満人口は推計2300万人

京都府立医科大学 吉田俊秀2002 日経サイエンス2002年11月号

 日本でも食生活やライフスタイルの欧米化に伴い,肥満人口は増加の一途をたどり,今や推計2300万人に達している(男性1300万人,女性1000万人)。このうちの約半数は病気を持たない“健康な肥満者”である。残りの半分にあたる1100万人は糖尿病や高脂血症,高血圧症,膝関節症などの生活習慣病を合併しており,これが医師の治療を必要とする「肥満症」である(肥満と肥満症の違いはフローチャートを参照)。
 医師の立場から言えば,健康な肥満者は何ら問題ない。太っているのは個性の1つであり,減量する・しないは本人の自由だ。しかし,肥満症ははっきりとした病気であり,見過ごすことはできない。肥満症の人は体重を落とすだけで糖尿病などの種々の生活習慣病を改善することができ,これらの根本的な解決にもつながる。本人のクオリティ・オブ・ライフ(QOL,生活の質)がよくなるだけでなく,医療費の削減にもなる。

【4】日本人は肥満に弱い

京都府立医科大学 吉田俊秀2002 日経サイエンス2002年11月号

 多くの読者はテレビなどで100kgを軽く超えそうな欧米人を見たことがあるだろう。200kgを超える高度肥満者さえブラウン管にしばしば登場する。ところが日本人でここまで太った人はそれほど多くない。それは後述するように,統計にもはっきりと現れている。なぜか?
 答えを一言で言ってしまえば,日本人は高度肥満になる前に糖尿病などを発病してしまうので,高度肥満になる時間的余裕がないのだ。日本人は肥満に弱く,健康な肥満になりにくいと言い換えてもよい。白人ではBMIが25以上になっても,それほど深刻な状態にはならないことが多いが,日本人ではそうはいかない。
 もう1つ日本人の肥満症を語るときに忘れてはならないのは,「倹約遺伝子」とか「肥満遺伝子」などと呼ばれている遺伝子の存在だ。現在では肥満とヤセに関係する遺伝子がいくつか知られている。日本人は太りやすい遺伝子を持つ人が多く,やせやすくする遺伝子を持つ人が少ない。このため,肥満症に陥ってしまったときに,減量の難しい人が多い。

【5】シンガポールの肥満税

ジャーナリスト 石橋恵梨子 NEWSSALT2019.10.14

 10日、シンガポール政府は砂糖の含有量が一定量を超える飲料水の広告を全面的に禁止する方針を発表した。シンガポールは18歳~69歳の国民のうち11%が糖尿病を抱えており、今回の決定はその対策のひとつ。具体的な実施内容は来年発表されるが、実現すれば世界初の試みとなる。シンガポール政府のこの取り組みは、消費者に知識を与え製造者には砂糖の含有量を減らすことを意図するもの。
 米大手コンサルティング会社マッキンゼーが2014年に発表した肥満に関する調査レポートによると、世界の人口の30%が肥満に相当し、これにより発生している経済損失は2兆ドル(約236兆円)に上るという。これは戦争や喫煙によって生じる損失にほぼ匹敵する数字で、他国でもこういった状況を踏まえ、肥満対策としてさまざまな法律が定められている。

【6】台湾のジャンクフード税

ジャーナリスト 石橋恵梨子 NEWSSALT2019.10.14

 台湾では国民の食生活の改善と肥満率の低下を目指し、2009年に世界で初めてジャンクフード税の導入を発表した。当時、子どもの25~30%が肥満であるとされ、このことによる国の保険制度への負担も懸念されていた。この特別税は、加糖飲料やファストフード、ケーキ、キャンディなどにかけられるようになった。

【7】メキシコでは砂糖税でジュースの消費量が減少

石橋恵梨子 NEWSSALT2019.10.14

 OECDの肥満ランキングでは米国に次いで2番目のメキシコ。肥満と糖尿病を減らすため、2014年から砂糖税を導入している。その結果、課税後、1年間のジュースの消費額は前年比で6%減少し、飲料水の売り上げは4%増加するなど、ジュース離れへの効果が表れている。砂糖税は英国、ノルウェーなど世界22カ国でも導入されている。
 世界保健機関(WHO)によれば、世界全体で3人に1人は減量する必要があるという。肥満は糖尿病や心臓疾患を引き起こす原因にもあり、これにより社会的負担も増大する。健康リスクを軽減するための法律は今後も広がっていきそうだ。

【8】デンマークで脂肪税を廃止

独立行政法人 農畜産業振興機構 2012

 2012年11月11日、デンマーク財務省は2013年の国家予算に関する協定が政府と連立与党間で合意に至ったと発表し、本協定の主要な内容の一つとして「脂肪税と砂糖税の廃止」を掲げた。
 昨年の10月1日から施行された脂肪税は、食品中の飽和脂肪酸(脂肪を構成する化合物の一つ)に課税する世界で初めての制度として注目されたが、およそ1年間という短期間で、廃止されることとなった。
 財務省のプレスリリースおよび同協定によると、脂肪税と砂糖税の廃止について、次の理由が挙げられている。

  • 結果として逆累進課税となり、低所得者層に対し悪影響を及ぼす。
  • 消費者価格ならびに企業の管理コストを押し上げ、デンマークの雇用を危険にさらす。
  • デンマーク国民が安価な商品を求め、国外で買い物をすることを助長する。

 今回の脂肪税の廃止により、企業の管理コストは、電気暖房に関する税率の低減とあわせ、長期的には240万デンマーククローネ(3,360万円、1デンマーククローネ=14円 2012年10月末TTS)の節減をもたらすと見込んでいる。

【9】国家は国民の健康を守るべき(宮本)

日本タバコフリー学会顧問 日本産科婦人科学会認定専門医 医学博士 宮本順(じゅん)伯(はく)「一匹狼の国 世界の喫煙規制を検証する」2015.9.11 P5

 日本国憲法では、すべての国民は健康で文化的な生活を営むことを保障している。たとえ国民一人ひとりが十分な医学的知識を持つことがなくとも、政府や地方自治体の積極的な政策の傘で、住民全体を守っていかねばならない。世界中すべての人々が健康であることは、平和と安全を達成するための基礎であり、その成否は、個人と行政機関の全面的な協力が得られるかどうかにかかっている。各国政府には自国民の健康に対する責任があり、その責任を果たすためには、十分な健康対策と社会的施策を行わなければならない(世界保健機関憲章の宣言)。

【10】愚行権

新潟薬科大学生命科学部生命産業創造学科 客員教授 酒井 穣 2016年07月29日

 愚行権(the right to do what is wrong)とは、簡単に言えば、他者からみて愚かなことをするのは、個人の自由であることを示す言葉です。いかに客観的に正しいことであっても、他者が、誰かに対して、なすべき行動を押し付けることはできないということを示す言葉でもあります。
 しかし、個人が自由を無限に認めてしまうと、社会が崩壊してしまいます。ですから社会は、個人の自由に制限をかけてきます。このとき、社会の側が個人に対して使うロジックは「他者の迷惑にならない限りにおいての自由(他者危害排除の原則)」です。
 では、どこまでが「他者の迷惑」として規定されるのでしょう。逆に、社会の側がこの範囲を無限に広げてしまうと、独裁国家が出来上がってしまいます。愚行権とは、個人の肉体と精神の主権は、個人にのみ帰属するというところを強調しつつ、社会からの制限を考えるときのキーワードでもあるということです。
 介護においても、いかにその背景に善意があったとしても、個人の愚行権を無視してしまえば、おかしなことになります。実際に、嫌がる高齢者に対して、無理やり介護予防をさせるというのは、独裁国家であれば正当化されることですが、民主主義国家においては許されません。
 医療費や介護費の財源が不足しているからといって、個人が食べられる食事を国が制限したり、運動を国が強制したりするのは行き過ぎでしょう。では、どこまでであれば、こうした制限は有効なのでしょうか。また、どうすれば介護予防は進むのでしょう。

【11】肥満税は低所得層を狙い撃ちするようなもの

税制コンサルタント ワタナベマリア Kaikei Zine 2019.4.4

 低所得な世帯ほど、不健康な食品を購入していると言われています。カップラーメンや、ドーナツ、ファーストフードなどは購入価格が安いためです。不健康な食品に税を課すのは、低所得者世帯の家計をまさに狙い撃ちするようなものだという意見が多くあります。

【12】軽減税率は消費税の逆進性を緩和している(1)

法政大学大学院 真壁昭夫 PRESIDENT Online 2018.10.30

 軽減税率の導入に関しては、経済の専門家の間でも賛否の意見は分かれる。賛成派は、軽減税率には消費税の逆進性を緩和するため、相応の正当性があるとみる。一方、反対派は、軽減税率を導入すると企業の経理事務の負担が増し、混乱が生じると指摘する。
 ただ、冷静に考えると、生活必需品を中心に軽減税率を導入することは、英独仏など欧州では実施されている。軽減税率には、人々に選択の余地を与えつつ、ぜいたくをするゆとりのある人からより多くの税金を徴収する効果があるとみている。
 軽減税率の潜在的なベネフィットを確認する意義は小さくはないだろう。重要なポイントは、消費税を負担する側・徴収する側のコンセンサスを作ることだ。国民が納得しない制度では、本来の政策意図を実現することは難しい。

【13】軽減税率は消費税の逆進性を緩和している(2)

法政大学大学院 真壁昭夫 PRESIDENT Online 2018.10.30

 軽減税率導入の議論で気になる点は、導入理由をおさえているかどうかだ。財務省は軽減税率導入の理由を、消費税率引き上げによる低所得者への影響を軽減することとしている。 消費税は、子供から高齢者まで社会全体で必要な財源を広く浅く均一に負担する間接税の一種だ。富裕層でも、そうでない階層でも、負担する税率は同じだ。
 そのため、消費税には「逆進性」がある。食料品などの生活必需品の例を考えると、消費税率の引き上げで特定の食料品に掛かる消費税は一定額上がる。結果として、所得に関係なく一定の税負担は増える。そうなると、低所得者の税の負担感はより大きくなることが想定される。それを消費税の逆進性という。
 この問題を解消するためには、生活必需品などを中心に税率を抑えることが解決策の一つになる。相対的に所得の少ない人が感じる負担を軽減することができる。それは、消費税率の引き上げに伴う需要の反動減を緩和し、経済成長の下振れリスクを抑えることにつながることも期待できる。

【14】軽減税率は消費税の逆進性を緩和している(3)

法政大学大学院 真壁昭夫 PRESIDENT Online 2018.10.30

 消費者には軽減税率を受けるか否か、選択する余地が与えられる。自宅で食事をするのであれば、軽減税率のベネフィットを享受できる。反対に、飲食店内あるいはイートインコーナーで食事をする場合は、10%の消費税を支払う。同様の仕組みは海外でも実施されている。フランスでは、消費税率(付加価値税)が20%であるのに対し、外食には10%、食料品には5.5%の軽減税率が設定されている(2018年1月時点)。
 この仕組みは、人々の心理をうまくついているといえる。たとえば、所得が高い人が週末に外食をするとしよう。その人にとって、税の負担感はあまり大きくないはずだ。消費税率が高くなったとしても、高所得者の消費行動が大きく変わるとは考えづらい。その人は支払う消費税の額が増えたとしても外食に出かけるだろう。
 一方、所得水準が低い人の場合、税負担の増加を抑えたいとの考えは強くなりやすい。その場合、外食は我慢してテイクアウトを利用することで、消費税の支払額を少なくすることができる。
 見方を変えると、政府が目指している軽減税率は、個人の担税力(税金を支払う能力)に着目し、ぜいたくをするゆとりのある人からは10%の消費税を徴収することを目指している。このように考えると、さまざまな報道で指摘されているほど軽減税率の導入がおかしいとは言えない。軽減税率の導入にはそれなりの正当性がある。税の負担を抑えたい人にとって、選択の余地があるか否かの違いは大きいだろう。

【15】消費税は逆進的とは言えない

大阪大学 大竹文雄 日本経済研究センター 2012.5.17

 国会で消費税増税が議論されている。野田佳彦首相は、消費増税に「政治生命をかける」としている。その割に、消費税に関する議論は建設的ではないように感じてしまう。増税は不可避のもとで、消費税なのか所得税なのか、という議論があれば、もう少し変わるのではないだろうか。消費税を否定する際の最大の根拠は、所得税は累進的だが、消費税は逆進的だというものだ。このことをもう少し考えてみよう。
所得税は累進的だが、消費税は逆進的?
 正確には、所得税は累進的にできるが、消費税は逆進的にしか課税できない、というべきであろう。所得に課税する場合であっても、比例的あるいは逆進的に課税されている場合もある。例えば、社会保険料はその例である。基本的に定率で課されている上、社会保険料には負担の上限もある。そのため、所得に対する社会保険料の支払額は逆進的になる。しかし、所得税は、通常、課税最低限がある上、限界税率が所得とともに上昇するので、所得に対する所得税負担率の比率である平均税率は上昇していく。
 これに対して、消費税は逆進的だと言われる。所得に対する消費の比率である平均消費性向が、所得が低いほど高く、所得が高くなるにしたがって小さくなっていくという特徴があるからだ。低所得者であっても生きていくためには消費をせざるを得ず、その消費に税金がかけられる。高所得者は、その所得の一部しか消費しなくても生きていけるのに、多額の貯蓄には課税されなくてすむ。なるほど消費税は逆進的で不公平に見える。
 しかし、よく考えてみると、現時点で多くの所得を稼いでいる人と、現時点で多くの消費をできる人とでは、どちらが豊かな人なのか、というのは意外に難しい。今年は仕事の調子が悪く、年収が100万円しかなかった人でも、大きな家に住んでいて、5000万円の貯金があるという人がいるかもしれない。逆に、今年はたまたま仕事が好調で1000万円の所得があったけれど、貯金はなく、借家に住んでいるという人もいるだろう。どちらの人も今年、200万円の消費をしたということは十分考えられる。最初の人は、所得は少ないけれど、多くの貯金がある。後者の人は、所得は多いけれど、将来に備えて貯蓄するだろうし、過去に借金をしていてその返済にあてる可能性もある。
 上の二人のケースでは、年収100万円の人の方が年収1000万円の人より、所得に対する消費税の負担率が高い。確かに逆進性が観察される。でも、この場合の逆進性は本当に政策的に問題にすべき逆進性なのだろうか。
 1000万円の所得の人の方が、100万円の所得の人より豊かだというのは、今年の所得で豊かさを定義しているからだ。ストックも含めた生活水準で考えると、どちらの人が豊かなのかは、簡単には言えない。所得よりもむしろ消費の方が人々の豊かさを測る上では優れているのではないだろうか。多くの消費ができる人が豊かであると考えれば、消費の一定割合を税金で支払うことは、逆進的でもなんでもなくなる。ほとんどの人が個人資産をもっていなかった時代なら、一年間の所得を豊かさの指標にすることは正しい。しかし、個人資産をもつ人が多い社会では、単年度の所得を豊かさの指標とするよりは、消費の額そのものを豊かさの指標とする方が望ましいのではないだろうか。

【16】租税平等負担主義の原則

高岡法科大学 松尾直 高岡法学 第29号 2011年3月 租税平等負担主義の原則は、日本国憲法第一四条に定める平等の一般原則をその根拠とする。また、租税法律主義の原則は、日本国憲法の第八四条に定める租税と法律をその根拠とする。租税法律主義の原則に基づき国会が租税法を制定改廃する場合に、租税平等負担主義の原則を遵守すべきことは当然の法理であり、租税平等負担主義の原則に反する租税法の制定改廃は憲法違反になるべきである。

【17】租税の実質的な応能負担の原則

高岡法科大学 松尾直 高岡法学 第29号 2011年3月

 要するに、消費税及び消費税の税率には、「広く薄く」課税する租税の形式的平等の原則が適用されている現実が認められるのである。他方、租税平等負担主義の原則には、租税の実質的な応能負担の原則がある。憲法上の租税平等負担主義の原則は、これも憲法上の租税法律主義の原則との関係では、租税法律主義に対して優先すべき租税法の上位の指導原理たるべきものである。従って、租税平等負担主義の原則は、所得税法にはもとより消費税法にも適用されるべきと解する。所得税法では、累進課税の税率により租税平等負担主義の原則が応能負担として適用されている。例えば、不合理で不平等または不公平な租税法を制定するならば、それは憲法上の租税平等負担主義の原則より、また正義公平の原理からも是正されるべきであろう。「消費税はその『逆進性』について国民の間に抵抗感は根強い。裕福な人にも、貧しい人にも一律の税率が適用されるため、形式的には平等のようにも見えるが、所得に占める税負担額の割合は、低所得者のほうが高くならざるをえない。」また「所得税は高額所得者に高い税率が適用され、税金の額はもちろんのこと、税率つまり負担感も高額所得者ほど高い。税率がだんだん高くなるこの仕組みを『累進』構造と呼んでいる。ところが、消費税はこの累進と逆の構造、 つまり『逆進』性がある。」。これは、まさに所得税に対しては、憲法上の租税平等負担主義の原則の応能負担原則が一応は適正に適用されていることを示すものである。ところが、消費税に対しては、憲法上の租税平等負担主義の原則の応能負担の原則より、「逆進性」の不公平が指摘されることで注目される。消費税については、「将来、歳入上の必要から税率の大幅な引上げが問題となる場合には、単一税率を維持することが困難となる事態も十分に予想される。」との示唆も、とくに行政・立法機関において留意されるべきことであろう。

【18】日本の所得格差は大きい

経済ジャーナリスト 岩崎 博充 東洋経済ONLINE 2019.1.22

 世界第3位の経済大国でありながら、日本には高い貧困率という問題が存在している。7人に1人が貧困にあえぎ、1人親世帯では半数以上が貧困に苦しんでいる。
 日本では貧困率のデータは3年ごとに調査されている。最新の数字は2015年に発表された15.6%。ひとり親世帯の貧困率では50.8%となっており、先進国の中では最悪のレベルに近い。
 最新情報となる2018年の調査で改善されているかどうかが注目されるが、現実問題として賃金が増えていない状況では大幅に改善しているとも思えない。「有効求人倍率」は大きく改善して、業界や職種によっては人手不足が深刻だが、相変わらず正規社員と非正規社員との間には給与面での大きな溝がある。

【19】メタボの人は医療費が高い

日本経済新聞2012.8.27

 メタボリック症候群の人の医療費が、そうでない人よりも年8万~12万円多いことが27日、厚生労働省の調査で分かった。医療費を増やす原因となった病名は調べていないが、高血圧などの生活習慣病が医療費を押し上げた可能性がある。
 中高年が対象の「メタボ健診(特定健康診査)」の受診率は40%台と低迷している。医療費の差が具体的に示されたことで、生活習慣を改善してメタボ脱却を目指す人が増えそうだ。
 医療費のうち患者が医療機関で支払う自己負担額は、70歳以上が原則として医療費の1割、70歳未満が3割。自己負担が3割の場合、医療費の差が10万円なら自己負担額の差は3万円になる。

【20】肥満者の生涯医療費は健康な人より少ない

田井メディカルクリニック院長 田井祐爾2008.2.9

 肥満者の生涯必要な医療費は健康な人に比べると少ないという新しい報告がなされた。
 理由は単純:肥満者は痩せている人に比べたら長く生きないからだ。
 この研究(Public Library of Science Journal)はシミュレーションモデルを使って次のことが言えている。

生涯の医療費(20歳以上の)

  • スリムで健康な集団:$417,000ドル(約4,500万円)
  • 肥満者の集団:$371,000ドル
  • 喫煙者のグループ:$326,000ドル

 20歳から56歳の肥満者のグループは最も高額な医療費を必要とした。しかし、彼らは早死にするので(肥満者グループは80歳vs健常者84歳)、結局トータルで安くなる。

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